ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星
The Loneliest Planet


2011年/アメリカ=ドイツ/カラー/113分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

隔絶した空間、ひとつの出来事から揺らぐ男女の関係
コーカサス山脈のランドスケープとサウンドスケープの融合

 

[ストーリー] 婚約して幸福の真っ只中にあるアレックスとニカ。休暇でグルジアを訪れたふたりは、地元の山岳ガイドのダトを雇い、景観が美しいコーカサス山脈にトレッキングに出かける。しかし、そこで起こったある出来事からアレックスとニカの間に溝が生まれ、ガイドのダトを含めた3者の関係に波紋が広がっていく。

 『ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星』は、長編デビュー作『デイ・ナイト・デイ・ナイト』が第59回カンヌ国際映画祭監督週間の作品賞に輝いた女性監督ジュリア・ロクテフの長編第2作になる。

 この映画には、トム・ビッセルの短編小説“Expensive Trips Nowhere”という原作があるが、ロクテフは、雄大な自然のなかにある3者の関係の微妙な変化を、台詞やストーリーに頼らず、映像で表現していくので、小説の映画化のようには見えない。

 厳密には、作品の出発点になっているのは、ロクテフの個人的な体験で、それが小説に結びついたというべきだろう。ロクテフは、恋人とグルジアを旅したことがあり、その間になにか特別なことが起こったわけではないのに、関係が破局に至ったという。そのときにこの小説を読んだことを思い出し、彼らの場合にはガイドを雇ったわけでもなく、山に登ったわけでもないが、関係のターニングポイントに接点を感じ、関心が膨らんでいった。

 原作の舞台は中央アジアだが、それがグルジアに変わったのには、他にも理由がある。ロクテフはロシア生まれで、ソビエト時代にグルジアは避暑地になっていて、彼女の両親も訪れていた。彼女の母親は、大学時代に三週間かけてコーカサス山脈を踏破したこともあるという。さらに、主演のガエル・ガルシア・ベルナルの脳裏に、ミハイル・レールモントフの19世紀の小説“A Hero of Our Time”におけるコーカサスの描写が焼きついていたため、それもインスピレーションのひとつになっている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   ジュリア・ロクテフ
Julia Loktev
原作/参照 トム・ビッセル、ミハイル・レールモントフ
Tom Bissell, Mikhail Lermontov
撮影 インティ・ブリオン
Inti Briones
編集 マイケル・テイラー
Michael Taylor
音楽 リチャード・スケルトン
Richard Skelton
 
◆キャスト◆
 
アレックス   ガエル・ガルシア・ベルナル
Gael Garcia Bernal
ニカ ハニー・フルステンベルク
Hani Furstenberg
ダト ビジナ・グジャビゼ
Bidzina Gujabidze
-
(配給:未公開DVD化)
 

 映画の舞台となるコーカサス山脈の景観は独特な印象を与える。緑に覆われているが、樹木が少ない。それは森林限界ということだけではなく、地質や気候とも関わっているのかもしれない。さらに岩場の奇勝にも目を奪われる。“ロンリエスト・プラネット”というタイトルに相応しく、どこかSF的なイメージも漂わせる。

 日常から隔てられた空間で繰り広げられる3人の男女のドラマは、ロマン・ポランスキーの『水の中のナイフ』を連想させるところもある。彼らの間に明確な対立が起こるわけではないが、複雑な感情が炙り出され、象徴とまではいえないが、ナイフも目にとまる。

 3人は山のなかで、そこに暮らしているらしい男たちに出会う。ガイドのダトと男たちはグルジア語で話しているので、アレックスとニカには意味がわからない。ところが、男たちのなかの父親らしき人物が突然、ふたりに銃を向け、動転したアレックスはとっさにニカを楯にする。ニカはすぐにアレックスの背後に回りこむが、その一瞬の出来事がふたりの関係、そしてダトを含む3者の関係に微妙な影響を及ぼしていく。だが、なにか劇的なことが起こるわけではない。

 淡々としたドラマに退屈する人もいることだろう。だが、筆者のように山歩きを趣味にする人は引き込まれるに違いない。それは風景の魅力だけを意味しているのではない。集団で山に登る場合には、信頼関係が重要になる。この映画の舞台のように、観光化された山ではなく、隔絶された場所で、キャンプしながら行動をともにするのであればなおさらだ。しかも、集団にはリーダーが必要になるが、それも明確ではない。そんな状況で生じた亀裂は、雇った人間と雇われた人間、男と女、言語や文化が違う人間同士の関係や距離を変化させていく。

 さらにもうひとつ、筆者が驚いたのは、イギリス・ランカシャーの自然とともに生きるアーティスト、リチャード・スケルトンの音楽が使用されていることだった。彼の音楽がいかに場所や自然と結びついているかについては、『ランディングス/Landings』(09)のレビューをお読みいただければと思う。

 この映画のなかで、スケルトンの音楽は、主人公たちが米粒のように見えるような、自然の雄大さが際立つロングショットの映像に重ねられている。ロクテフはスケルトンに映像を見せ、お互いに、もともと違う場所から生まれた音楽ではあるが、映像と調和していると感じたという。確かに、ここではランドスケープとサウンドスケープが融合し、深みを生み出している。


(upload:2014/12/29)
 
 
《関連リンク》
cinema scope | Terror Incognita: Julia Loktev
on The Loneliest Planet
ComingSoon net | Interview: Julia Loktev
Visits The Loneliest Planet
Los Angeles Times | Indie Focus: Gender dynamics
on 'The Loneliest Planet'
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