リチャード・スケルトン(Richard Skelton)の『Landings』についてはすでにレビューをアップしているが、彼はその先にどのようなサウンドスケープを切り拓こうとしているのか。どこかのサイトのインタビューでは、A Broken Consort名義の新作を出すと語っていたような気もする。しかし一方では、これまでとは違う試みにも挑戦している。
“AR”はSkeltonの新たなプロジェクトだ。これは単独の作業ではなく、ヴォーカリスト、Autumn Richardsonとのコラボレーションである。スケルトンの音楽では場所が重要な意味を持っている。これまでの作品ではその場所は、彼が暮らすランカシャーのWest Pennine Mooreや、家から遠くないところにあり、かつて農民が暮らした家屋の廃墟が残るAnglezarke Mooreだった。
AR - Wolf Notes by _type
しかし、ARの『Wolf Notes』ではランカシャーからさらに北に向かう。このアルバムは、カンブリア州にあるUlphaの風景、地名、動植物などにインスパイアされたサウンドスケープであり、土地へのオマージュになっている。
ヴォーカリスト、Richardsonとのコラボレーションだからそのサウンドにも大きな変化がある。1曲目の<Inception>の前半は、これまでのスケルトンの音楽と変わってないように感じるが、途中からRichardsonのヴォイスが加わり、溶け込んでいく。全5曲は、ひとつの流れを形作り、ある種の物語になっていると解釈することもできる。
2011年にアルバム『The Union』をリリースしたHallock Hillは、Skeltonの作品にかなりの愛着を持っていて、このアルバムについても自身のブログで分析し、キリストの物語と解釈していた。
<Inception>→<Rise>→<Decline>→<Rest>→<Return>という曲名を見れば、西洋人がそう考えるのは自然なことかもしれない。
Skeltonが特定の場所や自然から音楽を紡ぎ出すようになったのは、自然のなかで暮らし、そこで啓示を受けたことがきっかけになっている。但し、どこのインタビューか忘れてしまったが、それは特定の宗教の啓示とは違い、より普遍的なものであると語っていた。
だからといって、『Wolf Notes』の音楽の流れがキリストを意味しているわけではないと断言することはできないが、筆者の印象では、人間や動物の一生、そのなかでの自然との関わりを表現しているように思える。
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