グリーン・アンド・グレイ / ジュリア・ケント
Green and Grey / Julia Kent (2011)


 
line
(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年4月16日更新)

 

 

ニューヨーク在住のチェリストが紡ぎだす
自然と都市と人間のサウンドスケープ

 

 ジュリア・ケントの最初のソロ・アルバム『Delay』は、中間地帯としての空港から生み出されたサウンドスケープだった。そして、EP『Last Day In July』(2010)を経てリリースされた2枚目のソロ・アルバム『Green and Grey』(2011)でも、対象はまったく異なるが、やはり狭間の空間が意識されている。タイトルの“Green”は自然界を、“Grey”は人間界 (彼女が暮らすニューヨークというべきか)を意味している。

 筆者の記憶が正しければ、ジュリアはウェブのどこかのインタビューで、コリー・フラー(Corey Fuller)のアルバムがとても印象に残ったというようなことを語っていた。

 おそらくフラーの『Seas Between』のことだと思うが、だとしたら非常に頷ける。というのもこのアルバムは、アメリカと日本を行き来するような人生を送ってきたフラーが、ふたつの世界の狭間に“home”を見る、感じることが出発点になっているからだ。

 ジュリアはこのアルバムのために様々なフィールド・レコーディングを行い、採取した自然の音をインスピレーションの源として、ループ・サウンドを作り上げ ている。ただし、このアルバムで意識されている自然は、必ずしも都市から遠く離れた自然ではない。彼女は日常生活の周辺で自然をとらえている。

 フィールド・レコーディングで採取されているのは、蝉の合唱や草むらに響く虫の鳴き声、雨音といった自然だけではない。<Ailanthus>は採取され た足音から始まるが、それだけではなく背後にかすかな風の音や虫の声を聞き取れる。<Acquario>に響く水の音は、水槽のエアポンプから出てくる泡 の音だと思われる。別の曲では、フロントガラスをこするワイパーの音なども収められている。

 このアルバムでは、そうしたフィールド・レコーディングが曲のリズムの出発点となり、パーカッシブなタッチや微妙にノイジーな響きを意識したループのなかで、自然と都市と人間が交差していく。


<
◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Pleiades
02. Ailanthus
03. The Toll
04. Acquario
05. Tithonos
06. Guarding the Invitations
07. Overlook
08. A Spire
09. Missed
10. Dear Mr. Twombly
11. Wake Low

◆Personnel◆

Julia Kent - cello

(important)
 

 


(upload:2011/11/14)
 
 
《関連リンク》
Julia Kent official site
ジュリア・ケント 『Asperities』 レビュー ■
ジュリア・ケント 『Character』 レビュー ■
ジュリア・ケント 『Delay』 レビュー ■
Richard Skelton 『Landings』 レビュー ■

 
 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp