ジュリア・ケントの最初のソロ・アルバム『Delay』は、中間地帯としての空港から生み出されたサウンドスケープだった。そして、EP『Last Day In July』(2010)を経てリリースされた2枚目のソロ・アルバム『Green and Grey』(2011)でも、対象はまったく異なるが、やはり狭間の空間が意識されている。タイトルの“Green”は自然界を、“Grey”は人間界 (彼女が暮らすニューヨークというべきか)を意味している。
筆者の記憶が正しければ、ジュリアはウェブのどこかのインタビューで、コリー・フラー(Corey Fuller)のアルバムがとても印象に残ったというようなことを語っていた。
おそらくフラーの『Seas Between』のことだと思うが、だとしたら非常に頷ける。というのもこのアルバムは、アメリカと日本を行き来するような人生を送ってきたフラーが、ふたつの世界の狭間に“home”を見る、感じることが出発点になっているからだ。
ジュリアはこのアルバムのために様々なフィールド・レコーディングを行い、採取した自然の音をインスピレーションの源として、ループ・サウンドを作り上げ ている。ただし、このアルバムで意識されている自然は、必ずしも都市から遠く離れた自然ではない。彼女は日常生活の周辺で自然をとらえている。
フィールド・レコーディングで採取されているのは、蝉の合唱や草むらに響く虫の鳴き声、雨音といった自然だけではない。<Ailanthus>は採取され た足音から始まるが、それだけではなく背後にかすかな風の音や虫の声を聞き取れる。<Acquario>に響く水の音は、水槽のエアポンプから出てくる泡 の音だと思われる。別の曲では、フロントガラスをこするワイパーの音なども収められている。
このアルバムでは、そうしたフィールド・レコーディングが曲のリズムの出発点となり、パーカッシブなタッチや微妙にノイジーな響きを意識したループのなかで、自然と都市と人間が交差していく。 |