Delay / Julia Kent
Delay / Julia Kent (2007)


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年4月16日更新)

“中間地帯”としての空港から
生み出されたサウンドスケープ

 カナダ出身で、ニューヨークを拠点に活動するチェリスト、ジュリア・ケント(Julia Kent)は、インディアナ大学でクラシックとチェロを学んだが、クラシックの音楽家になりたいと思っていたわけではなかった(ちなみに彼女の姉妹のジリアン・ケントは、クラシックのバイオリニストとして活躍している)。

 そんな彼女は、学校を出てからしばらくジャーナリズムの世界で仕事をしたあと、3本のチェロを中心にしたオルタナティブなバンドRasputinaのオリ ジナル・メンバーになり、チェリストとしてのキャリアをスタートさせる。そして、90年代末にバンドを離れた後は、Antony and the Johnsonsのメンバーとなる一方で、Burnt Sugar the Arkestra Chamber、Leona Naess、Angela McCluskeyなど様々なミュージシャンたちとセッションを繰り広げていく。

 ジュリアが2007年にリリースした最初のソロ・アルバム『Delay』は、そんな活動と無関係ではない。彼女はAntonyやその他のグループとのツアーで訪れた各国の“空港”にインスパイアされて、このアルバムを作った。

 アルバムに収められた11曲のタイトル、<Gardermoen><Idlewild><Elmas><Barajas><Fontanarossa> <Arlanda><Dorval><Venizelos><Schiphol><Tempelhof><Malpensa>は、すべて空港の名前から取 られている(詳しくは書かないが、ほとんどはヨーロッパの国々にある空港だ)。

 アルバムのタイトルの“Delay”には複数の意味がある。ひとつは、飛行機の遅延を意味している。もうひとつは、ディレイやリバーブによってループを生み出し、音を自在に重ねていく彼女のスタイルを意味している。

 ジョン・トムリンソンは『グローバリゼーション』のなかで、空港とグローバリゼーションが結びつけられる理由をこのように書いている。

なぜなら、世界中の空港ターミ ナルがどれも似たようなものであることは否定しようもないからだ。異なる文化的空間への出口や入口は、これまでたびたび指摘されてきたように、奇妙なまで に画一的で標準化されている

 ジュリアは、ある場所から別の場所に移動するあいだにあるこの奇妙な中間地帯で、ときとして混乱を覚えることがあったらしい。『Delay』では、そんな体験をもとに、パブリックな空間から非常にエモーショナルでメランコリックなサウンドが生み出されている。


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◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Gardermoen
02. Idlewild
03. Elmas
04. Barajas
05. Fontanarossa
06. Arlanda
07. Dorval
08. Venizelos
09. Schiphol
10. Tempelhof
11. Malpensa

◆Personnel◆

Julia Kent - cello

(Shayo Records)
 

 
《参照/引用文献》
『グローバリゼーション』ジョン・トムリンソン著●
片岡信訳(青土社、2000年)

(upload:2011/11/14)
 
 
《関連リンク》
Julia Kent official site
ジュリア・ケント 『Asperities』 レビュー ■
ジュリア・ケント 『Character』 レビュー ■
ジュリア・ケント 『Green and Grey』 レビュー ■
『Making Love to the Dark Ages』 Burnt Sugar the Arkestra Chamber ■
『ゲート・トゥ・ヘヴン』 ファイト・ヘルマー ■
『ターミナル』 スティーヴン・スピルバーグ ■

 
 
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