ランディングス / リチャード・スケルトン
Landings / Richard Skelton (2009)


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年5月30日更新)

 

 

場所から生まれ、場所を取り込み、
そして場所に帰る――儀式としての音楽

 

 イギリス・ランカシャーの自然とともに生きるアーティスト、リチャード・スケルトン(Richard Skelton)は、自身のレーベル“Sustain Release”を立ち上げ、Clouwbeck、 Heidika、 Carousell、A Broken Consortなどの様々な名義で作品を発表してきた。リチャード・スケルトンの名前を使ったのは、『Marking Time』(2008)が最初で、それにつづくのが『Landings』(2009)だ。

 スケルトンが、弓弾きの弦楽器(主にヴァイオリン)、ギター、マンドリン、ピアノ、アコーディオン、パーカッションなどから紡ぎ出すレイヤー・サウンドはすぐにわかる。そこには彼でなければ切り拓けないサウンドスケープがある。音の断片は生々しく、ノイジーでもあり、身体というものを意識させる。ところがそうした断片で構築される空間は、美しく静謐で、幽玄とすらいえる。

Richard Skelton - Landings by _type

 そんなスケルトンのサウンドスケープは、彼の精神や世界観と深く結びついている。

 彼が立ち上げたレーベル“Sustain Release”には、2004年に亡くなった妻ルイーズへの追悼という意味が込められていた。それは単に死者に音楽を捧げるということではない。ルイーズもまたアーティストで、生前の彼女はスケルトンにインスピレーションをもたらしていた。

 このレーベルから生み出される作品は、スケルトンと亡き妻とのコラボレーションでもある。彼は、自分の音楽と彼女が残したアートワークや彼女が撮影した写真、そして枯れ葉や植物の種をパッケージにし、それが一枚一枚異なる作品になった。彼が様々な名義を使い分けるのも、音楽やアートワークとの統一性を意識してのことだといえる。『Marking Time』や『Landings』で本名を使っているのは、それらが他のレーベルからリリースされているからだ。

 彼の音楽では「場所」が重要な意味を持つ。たとえば、彼の家から遠くないところにAnglezarkeという地域がある。そこには、遠い昔に農民が暮らしていた家屋の廃墟がある。彼は夜明け前にギターやヴァイオリンを持ってそこに行き、レコーディングを行う。特定の場所から生まれるその音はまだ曲にはなっていない。その音の断片には、激しさや生々しさがある。曲は後にその断片のループや重なりのなかから生み出される。


◆Jacket◆
landings
 
◆Track listing◆

01.   Noon Hill Wood
02. Scar Tissue
03. Threads Across the River
04. Greens Withins Brook
05. Of the Last Generation
06. Undertow
07. Voice of the Book
08. Rapture
09. Pariah
10. River Song
11. Remaindered
12. The Shape Leaves

◆Personnel◆

Richard Skelton

(Type Recordings)
 
 
 

 さらに、曲のなかに場所を取り込む。その方法がユニークだ。まだ使われている橋とすでに廃墟になった橋がある。最初の橋の下でまずレコーディングを行い、次にもうひとつの橋の下でそれをリプレイし、橋の反響によって異なる響きやテクスチャーを得る。そんなふうにして場所と場所が結び付けられ、音楽に場所が取り込まれる。

 場所との繋がりはそれで終わらない。曲を作るとそれをCDに焼き、その音が演奏された場所に戻り、石の下などに置いていく。また、弦を土に埋めたり、小さな楽器をスタジオで使う前に自然のなかに置いておく。石や樹皮、松ぼっくり、羽根、骨などを、ピックとして使う。

 そうしたある種の儀式を通して音楽が場所と深く結びつき、変化を遂げていく。音の断片は、激しくて生々しいのに、全体としては静謐で幽玄でもある。実は自然とはそういうものかもしれない。だからスケルトンのサウンドスケープに深く引き込まれるのだ。


(upload:2011/11/09)
 
 
《関連リンク》
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TLOBF Interview:Richard Skelton (The Line of Best Fit)
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