トンツーは内心、ルアンホンに強く惹かれ、彼女もまた彼に好意を感じているが、彼らの間には越えることができない明確な一線が引かれている。内気で不器用なトンツーは、決して自分から感情を直接的な行動で表すことができない。一方、ルアンホンには、彼の優しさや誠実さは受け入れられない。
歌手としての成功を夢見ながら裏切られてきた彼女は、それだけでは都会で生き抜けないことを知っているからだ。
あるいは、こう言い換えることもできる。都会に出てきたものの、農村と同じように低賃金で黙々と働くトンツーは、いまだ新しい社会の洗礼を受けていない。ガオピンと彼女は向こう側の世界で、危険をおかしてでも這い上がろうとしている。そして、いまだ洗礼を受けていないトンツーには、
決して彼らの世界や運命に関与することができない。ある意味でただ見つめるしかないこの彼の眼差しは、非常に身近な場所で現実をリアルにとらえる役割を果たしている。
しかし同時に、彼は異なる次元で、この一線を越えていく。何とかして彼女に近づきたい彼は、密かに彼女の靴や下着に触れ、やがて彼女の歌へとたどりつく。ひとりでナイトクラブの客になることすら恐れる彼は、高価なカセットレコーダーを購入し、クラブからもれてくる彼女の歌声を録音し、
その歌が彼女に最も近い場所となる。そして、彼女に近づこうとする努力が、結果的に彼に洗礼を与えることになる。
映画の最後でトンツーと彼女が再会するとき、ガオピンがいた場所は人間ではなく電化製品の倉庫となり、トンツーはその管理人としてそこにいる。彼は、かつてのガオピンや彼女と同じように煙草を吸う人間になっている。テープに封じ込められた彼女の歌だけは何も変わらないが、それは二度と取り戻すことができない時間の証でもあるのだ。
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