『シャロウ・グレイブ』(95)では、共同生活を送る3人の男女のもとに大金が転がり込んだことから、彼らが殺し合いを始める。『トレインスポッティング』(96)では、「自己中心のガキになるほどみっともないことはない」と主張していたはずの主人公が、仲間を裏切り、金を一人占めにする。『ザ・ビーチ』(00)では、楽園を独占する仲間たちの結束が崩れ去っていく。
ダニー・ボイルの世界では、仲間割れが繰り返されてきた。彼がそんなドラマに関心を持つのは、イギリス社会の変化と無縁ではない。イギリスは80年代にアメリカ型の市場主義を導入し、経済は活性化したが、同時に拝金主義や利己主義がはびこるようになった。この急激な変化を体験してきたボイルが、監督として人間のエゴにこだわるのは不思議なことではないだろう。
新作の『28日後…』では、エゴがさらに鮮烈に描きだされる。と同時にこの映画は、失われた絆を再生していく物語でもある。ウイルスの蔓延によって無人と化したロンドンは、そんな映画の始まりに相応しい場所だといえる。
イギリスでは90年代後半から監視カメラが急速に普及するようになり、いまでは大都市を中心に、人々が至るところに設置されたカメラの監視の目にさらされている。そして、映画にもそんな現実が様々なかたちで反映されている。近未来のリヴァプールを舞台にしたアレックス・コックス監督の『リベンジャーズ・トラジディ』(02)には、監視カメラの映像が頻繁に挿入される。サリー・ポッター監督が9・11以後を意識して作り上げた『愛をつづる詩』(04)にも、監視カメラの映像が盛り込まれている。
筆者がこのふたりの監督にインタビューしたとき、彼らは監視カメラに対する関心をこのように語っていた。
アレックス・コックス「もちろんたくさんの監視カメラの映像には意味がある。ロンドンには世界のどの都市よりも多くの監視カメラがある。しかしだからといって安全ではない。ロンドンは東京やその他の都市よりも危険だ。そんな状況に国家の性格のようなものが表れていると思って、監視カメラの映像を盛り込んだんだ」
|