[ストーリー] 診療時間をとっくに過ぎた午後8時に鳴ったドアベルに若き女医ジェニーは応じなかった。その翌日、診療所近くで身元不明の少女の遺体が見つかる。それは診療所のモニターに収められた少女だった。
少女は誰なのか? 何故死んでしまったのか? ドアベルを押して何を伝えようとしていたのか?あふれかえる疑問の中、ジェニーは亡くなる直前の少女の足取りを探るうちに危険に巻き込まれていく。
彼女の名を知ろうと、必死で少女のかけらを集めるジェニーが見つけ出す意外な死の真相とは──。[プレスより引用]
[短い感想] ダルデンヌ兄弟の新作『午後8時の訪問者』は、彼らの原点ともいえる『イゴールの約束』(96)を思い出させる。
『イゴールの約束』の主人公である15歳の少年イゴールは、自動車修理工場で働くかたわらで、父親の仕事を手伝っている。その仕事とは違法外国人労働者の斡旋業だ。ところがある日、アフリカ人労働者が工事現場から転落する。父親は重傷の労働者を病院に連れていこうとはせず、父子は彼を見殺しにしてしまう。 しかし、イゴールは彼が息を引きとる間際にある約束をし、その約束が少年に、自分と世界の関係の見直しを迫ることになる。
イゴールの父親はなんでも忘れようとする人間で、息子もそれを真似てきたが、この約束をきっかけに彼は罪悪感を獲得し、変容を遂げていく。『午後8時の訪問者』の主人公ジェニーは、ドアベルに応じなかったことを誰かに責められるわけではないが、罪悪感にとらわれ、行動するなかで、真実にたどり着くだけではなく、医師として、あるいは人間として変容を遂げていく。
ダルデンヌ兄弟は、この新作で彼らの原点に立ち返り、罪悪感から生まれる重要な儀礼を描き出している。 |