GAGARINE/ガガーリン
Gagarine


2020年/フランス/フランス語/カラー/98分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:「ニューズウィーク日本版」映画の境界線2022年2月25日更新)

 

 

ドキュメンタリーとマジックリアリズム、実在した団地と宇宙
新鋭の監督ユニットが独自のスタイルでバンリュー(郊外)を描く

 

[Introduction] 1961年に人類初の有人宇宙飛行を成し遂げた旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリン。かつてフランス・パリ郊外に、彼の名を冠した”団地”が存在した。2024年にパリ・オリンピックをにらんだ再開発によって、2019年に取り壊されたガガーリン団地を舞台にした本作は、若き男女の監督ユニット、ファニー・リアタールジェレミー・トルイユの長編デビュー作だ。リアタール&トルイユ監督は、解体される前のガガーリン団地で撮影を行い、そこに暮らすさまざまなルーツを持つ移民たちの姿、線路や橋などの印象的なロケーションをカメラに収め、失われゆくコミュニティ、移ろいゆく時代への郷愁を映画に吹き込んだ。

 ガガーリン団地を守ろうとする主人公の少年ユーリを、オーディションで見出された新人俳優アルセニ・バティリ、彼が想いを寄せるロマの少女ディアナを、『パピチャ 未来へのランウェイ』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』『オートクチュール』リナ・クードリが演じ、レオス・カラックス作品常連のドニ・ラヴァンが、廃品業者ジェラール役で特別出演している。(プレス参照)

[Story] パリ郊外のイヴリー・シュル・セーヌにそびえ立つ大規模な公営住宅ガガーリン。老朽化したこの建物にはかねてから解体の噂が流れていたが、ここで育った16歳の少年ユーリは、いくつもの大切な思い出が刻まれた場所を守るため、友人らと共に取り壊しを阻止しようと動き出す。自由で快活なロマの少女ディアナに恋心を抱き、彼女や親友フサームとの交流の中で、不器用ながらも少しずつ成長していくユーリ。しかしそんなある日、行政当局の調査によって団地の解体が正式に決定してしまう。次々と住民が立ち退き、母親にも見捨てられたユーリは、深い悲しみの中で途方もないミッションの実行を決意する。それは空っぽになった無人の団地を”宇宙船”に改造し、自分の大切な思い出がつまったこの場所を守り抜くこと。やがて団地が爆破解体される当日、積み重なったユーリの内なる想いが、光をたぐり寄せる...。

 ニューズウィーク日本版の筆者コラム「映画の境界線」で本作を取り上げています。その記事をお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

消えゆくパリ郊外のガガーリン団地、若者の孤独 |
『GAGARINE/ガガーリン』


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ファニー・リアタールジェレミー・トルイユ
Fanny Liatard, Jeremy Trouilh
撮影監督 ビクター・シギーン
Victor Seguin
編集 ダニエル・ダルモン
Daniel Darmon
音楽 アミン・ブハファ、イェフゲニ・ガルベリン、サーシャ・ガルペリン
Amin Bouhafa, Evgueni Galperine, Sacha Galperine
 
◆キャスト◆
 
ユーリ   アルセニ・バティリ
Alseni Bathily
ディアナ リナ・クードリ
Lyna Khoudri
フサーム ジャミル・マクレイヴン
Jamil McCraven
ダリ フィネガン・オールドフィールド
Finnegan Oldfield
ファリ ファリダ・ラウアジ
Farida Rahouadj
ジェラール ドニ・ラヴァン
Denis Lavant
-
(配給:ツイン)
 

 追加情報として、リアタール&トルイユが本作で長編デビューを果たす前に作っていた3本の短篇について触れておこうかと思います。

● 「Gagarine」(2015)
長編デビュー作のもとになった15分の短篇。1960年代にユーリ・ガガーリンが団地の落成式にやって来た映像が冒頭に挿入されるのは同じ。主人公ユーリは16歳ではなく20歳という設定で、長編では彼の母親は、恋人をつくってその男と暮らしているが、この短篇では母親はユーリと一緒に暮らしている。ユーリを演じているのは、新人のアルセニ・バティリではなく、同じようにバンリューを舞台にしたセリーヌ・シアマ監督の『ガールフッド』(14)で、ヒロイン、マリエムが惹かれるイスマエルを演じていたイドリッサ・ディアバテ。

● 「La Republique des enchanteurs」(2016)

● 「Chien Bleu」(2018)
「青い犬」のタイトルで配信されたこともある17分の短篇。

 

(upload:2022/02/22)
 
 
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