オートクチュール
Haute couture


2021年/フランス/フランス語/カラー/100分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

引退間近の孤高のお針子とバンリューに暮らす移民二世の少女
チュニジア人とユダヤ人の血を引く女性監督オハヨンの第2作

 

[Introduction] ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者であるエステルと、バンリュー(郊外)で貧しく希望のない生活を送る移民二世の少女ジャドが、ハンドバッグのひったくりをきっかけに出会い、ふたりの人生が交差する...。

 ジャドと同じようにバンリューで育ち、作家としてこれまでに6冊の作品を出版し、2011年に発表した『Papa was not a Rolling Stone』を自ら映画化した『Papa was not a Rolling Stone』(14)で監督として長編デビューを果たしたシルヴィー・オハヨンの長編第2作。孤高のお針子エステルを、『わたしはロランス』(12)、『田園の守り人たち』(17)のナタリー・バイ、バンリューに暮らす少女ジャドを、『パピチャ 未来へのランウェイ』(19)、『GAGARINE/ガガーリン』(20)、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)のリナ・クードリが演じる。その他のキャストは、『MISS ミス・フランスになりたい!』(20)のパスカル・アルビロ、『ビッグバグ』(22)のクロード・ペロン、『モスル〜あるSWAT部隊の戦い〜』(19)のアダム・ベッサ、『パリの家族たち』(18)のクロチルド・クロなど。(プレス参照)

[Story] ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者であるエステルは、次のコレクションを終えたら退職する。準備に追われていたある朝、地下鉄で若い娘にハンドバッグをひったくられてしまう。犯人は郊外の団地から遠征してきたジャド。警察に突き出してもよかった。しかし、滑らかに動く指にドレスを縫い上げる才能を直感したエステルは、ジャドを見習いとしてアトリエに迎え入れる。時に反発しながらも、時に母娘のように、そして親友のように美の真髄を追い求め濃密な時間を過ごす二人だったが、ある朝エステルが倒れてしまう・・・。最後のショーは一週間後に迫っていた――。

[以下、本作の短いレビューになります]

 本作が扱っている題材への関心は、大きくふたつに分けることができるだろう。ひとつはもちろんファッション。そしてもうひとつがフランスのバンリュー(郊外)、ジャドが生きる世界。筆者の場合は主に後者だ。シルヴィー・オハヨンのプロフィールには、幼少期をパリ郊外ラ・クルヌーヴの大規模団地(cite des 4000)で過ごしたとあり、ジャドの設定には彼女の個人的な体験も反映されていると思われる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   シルヴィー・オハヨン
Sylvie Ohayon
脚本 シルヴィー・ヴェレイド
Sylvie Verheyde
撮影 ジョルジュ・ルシャプトワ
Georges Lechaptois
編集 マイク・フロマンタン
Mike Fromentin
音楽 パルカル・ランガニュ
Pascal Lengagne
 
◆キャスト◆
 
エステル   ナタリー・バイ
Nathalie Baye
ジャド リナ・クードリ
Lyna Khoudri
カトリーヌ パスカル・アルビロ
Pascale Arbillot
アンドレ クロード・ペロン
Claude Perron
スアド ソマヤ・ボークム
Soumaye Bocoum
アデル アダム・ベッサ
Adam Bessa
ミュミュ クロチルド・クロ
Clotilde Courau
-
(配給:クロックワークス、
アルバトロス・フィルム)
 

 そんなジャドの家庭環境は、モロッコ系フランス人の女性監督ウーダ・ベニャミナの長編デビュー作『ディヴァイン』(16)に描かれるヒロイン、ドゥニアのそれに重なるところがある。どちらの女性監督も、その部分に関しては、ふたつの文化や歴史の狭間にあって、機会に恵まれないバンリューで生活する移民二世の少女が、どのようにロールモデルを見出すのかを描いているといえる。

 バンリューでどん底の生活を送る『ディヴァイン』のドゥニアには、ロールモデルとなるような人間が存在しない。母親は酒浸りで自堕落な生活を送っている。ドゥニアは、学校の授業で受付係になるための指導をする女性教師を軽蔑し、屈辱する。偉そうに指導しても、彼女たちには機会が奪われ、稼げないことがわかってしまっているからだ。彼女がどん底の生活から抜け出すためには、地元の麻薬の売人レベッカをロールモデルにするしかない。

 本作のジャドは、幼い頃から鬱病の母親の面倒をみてきたヤングケアラーでもあり、そんな生活に疲れている。ジャドもロールモデルを見出せず、バンリューに暮らす親友スアドと組んで、ひったくりなどで小遣い稼ぎをしている。『ディヴァイン』のドゥニアは、最初は親友のマイナムと組んで、スーパーで万引きした商品を路上でクラスメートに売って小銭を稼いでいるが、レベッカと出会い麻薬の売人になる。

 ジャドは、ひったくりをきっかけにエステルと出会い、見習いのお針子としてアトリエに通うことになる。だが、境遇による反抗的な態度はドゥニアに負けていない。エステルが彼女に才能を感じただけならば、ドゥニアに屈辱される女性教師のように打ちのめされていただろう。しかしエステルには、仕事にすべてを捧げてきたために、実の娘と疎遠になってしまったことがわだかまりとなっていた。

 エステルとジャドは、衝突しつつも母親と娘のような関係を築き、エステルがジャドのロールモデルとなり、ジャドはアイデンティティを確立していくことになる。ジャドを演じたリナ・クードリは、ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ監督の『GAGARINE/ガガーリン』(20)では、バンリューに隣接するキャンプに暮らすロマの少女を演じていた。これからもバンリューに関わるキャラクターを演じることで女優として成長を遂げていくのかもしれない。


(upload:2022/02/20、update:2022/03/20)

 
 
《関連リンク》
ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ
『GAGARINE/ガガーリン』 レビュー
■
ウーダ・ベニャミナ 『ディヴァイン』 レビュー ■
サミュエル・ベンシェトリ 『アスファルト』 レビュー ■

 
 
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