ディヴァイン
Divines


2016年/フランス・カタール/フランス語/カラー/105分/スコープサイズ
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(初出:)

 

 

バンリューのそのまた縁に住む少女が金欲しさに売人になり...
フランスの新鋭女性監督、カンヌ映画祭カメラドール受賞作

 

[Introduction] モロッコ系フランス人の女性監督ウーダ・ベニャミナの長編デビュー作。カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞した。マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』(95)やセリーヌ・シアマの『ガールフッド』(14)と同じく、貧しい移民が多く暮らすパリのバンリュー(郊外)を舞台にしている。どん底の生活のなかで金に取り憑かれた十代の少女ドゥニアが、野心に燃えて麻薬の売人になり、取り返しのつかない状況に陥っていくスリラー/青春映画。ドゥニアを演じるのは、ベニャミナ監督の妹のウーヤラ・アマムラ。その振り切れた演技にも注目。

 本作の舞台はパリのバンリュー(郊外)だが、ヒロインのドゥニアが酒浸りの母親やおばと暮らしているのは、そこに建つ団地ではなく、敷地の隅にあるロマのキャンプだ。ベニャミナ監督によれば、そういうキャンプには伝統的にロマだけが暮らしていたが、いまでは最下層のマグレブや他のアフリカ系移民、さらには白人も暮らしていることがあるという。ドゥニアが金に取り憑かれていくのは、そんなどん底の生活と無関係ではないだろう。

 そんなドゥニアは、親友のマイムナといつも行動を共にしている。マイムナは敬虔なムスリムの両親と団地に暮らしている。ふたりはスーパーで万引きした商品を路上でクラスメートに売って小銭を稼いでいる。金に取り憑かれているドゥニアは、優雅なタイ旅行のことを自慢する地元の麻薬の売人レベッカに刺激され、マイムナとともに彼女のために働く売人となる。売人として認められたドゥニアは、レベッカから、彼女を裏切った男レダが彼の家に隠している10万ユーロを盗むように命じられる。金のためにそれを引き受けたドゥニアは、後戻りできない深みにはまっていく。

 興味深いのは、ベニャミナ監督が、ドゥニアとマイナムのキャラクターを、ロバート・デ・ニーロとハーヴェイ・カイテルに例えていること。タイトルに言及していなくても『ミーン・ストリート』のことを指しているのはすぐにわかる。デ・ニーロが演じるジョニーは、郵便ポストを爆破したり、屋上からむやみに銃をぶっ放したり、借金で泥沼にはまっていくエキセントリックで破滅的なキャラクターで、カイテル演じるマフィアの手下でありながら信心深いチャーリーは、そんなジョニーを見放すことができず、トラブルに巻き込まれていく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ウーダ・ベニャミナ
Houda Benyamina
共同脚本 ロマン・コンパン、マリク・リュモー
Romain Compingt, Malik Rumeau
撮影 ジュリアン・プパー
Julien Poupard
編集 ロイク・ラルマン、ヴァンサン・トゥリコン
Loic Lallemand, Vincent Tricon
音楽 Demusmaker
 
◆キャスト◆
 
ドゥニア   ウーヤラ・アマムラ
Oulaya Amamra
マイムナ デブラ・ルクムエナ
Deborah Lukumuena
レベッカ ジスカ・カルヴァンダ
Jisca Kalvanda
ジギ ケヴィン・ミシェル
Kevin Mischel
ミリアム マジョリーヌ・イドリシ
Majdouline Idrissi
サミール ヤシン・ウイシャ
Yasin Houicha
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(配給:Netflix)
 

 ドゥニアは賢いが、一度キレると歯止めがきかない。彼女はレベッカに取り入るときにレベッカの手下の売人サミールの恨みを買う。サミールを尾行して、麻薬の隠し場所からそれを奪い、レベッカに差し出し、自分ならもっと上手くやるといって彼女に取り入り、彼の面子を潰したからだ。サミールはその報復として、奔放なレベッカの母親を誘惑し、レベッカはふたりが寝ているのを目の当たりにする。激昂した彼女は、サミールの母親の車に火を放ち、駆け付けた警察を挑発する。ムスリムで、しかも呪術も信じているマイムナは、暴走するレベッカになんとかブレーキをかけようとするが、自分も巻き込まれていくことになる。

 どん底の生活を送るドゥニアには、ロールモデルとなるような人間が存在しない。母親は酒浸りで自堕落な生活を送っている。ドゥニアは、学校の授業で受付係になるための指導をする女性教師を軽蔑し、屈辱する。偉そうに指導しても、彼女たちには機会が奪われ、稼げないことがわかってしまっているからだ。彼女がロマのキャンプから抜け出すためには、レベッカをロールモデルにするしかない。

 ただし、ロールモデルとなり得る人物がまったく登場しないわけではない。万引きしたものを売りさばくドゥニアとマイムナは、地元にある劇場のキャットウォークをたまり場にし、ダンサーたちの練習を密かに見下ろしている。ドゥニアは、そのなかのひとり、モールで警備員として働きながらプロのダンサーを目指すジギに惹かれる。彼は、恋愛の対象であるだけでなく、ロールモデルになり得る。実際、ドラマでは、ダンスに専念するジギと売人としてのし上がるドゥニアが対比するように描かれている。だが、ドゥニアには彼をロールモデルとして見ることができない。

 ベニャミナ監督の両親は、1970年代半ばにフランスにやってきた。彼女は、ふたつの文化の狭間に置かれている現代のアラブ系フランス人の若者について、このように語っている。

「価値観の欠如、精神性や、若者たちのルーツである文化に対する理解や知識の欠如。そうした無知や帰属感の欠如がモンスターを生み出す。なぜなら、彼らが生きる社会、彼らが自分たちの国と考える世界、彼らはそうしたものから拒絶されているように感じ、新たなアイデンティティを作り上げる。それは、抵抗のアイデンティティのようなもので、パンク・ムーヴメントと比較することもできる」

 ベニャミナ監督によれば、本作の出発点は、ラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』と同じように、2005年に起きたパリのバンリューにおける移民の暴動にあるという。その事件の後でなにも変わることはなく、むしろ状況は悪化し、人々はより貧しくなり、ロマのキャンプに追いやられることになった。

 ロールモデルが見出せず、帰属感の欠如ゆえに幻想に溺れ、マイムナも巻き込んで悲劇的な結末を迎えるドゥニアの運命には、不平等な社会に対する抵抗の意味も込められている。

《参照記事》
Interview : Divines director Houda Benyamina●
'It's better to make a film than a bomb' by Steve Rose

(The Guardian | Thu 10 Nov 2016)

(upload:2022/02/25)
 
 
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