悪党に粛清を
The Salvation  The Salvation
(2014) on IMDb


2014年/デンマーク=イギリス=南アフリカ/カラー/93分/スコープサイズ/
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(初出:)

 

 

純正西部劇のクリシェに隠された
もうひとつの世界を想像する楽しみ

 

[ストーリー] 1870年代アメリカ――。元兵士のジョンは敗戦で荒れたデンマークから新天地アメリカへと旅立つ。7年後、事業も軌道に乗り妻子を呼び寄せ再会を喜びあったのも束の間、非情にも目の前で妻子を殺されてしまう。

 怒りのあまり犯人を見つけ出し射殺したジョンだったが、犯人はこの辺り一帯を支配する悪名高いデラルー大佐の弟だったことから彼の怒りを買う。更にその弟の情婦で声を失ったマデリンも巻き込み、それぞれの孤独で壮絶な復讐がはじまった――。[プレスより]

 “ドグマ95”を代表する1本『キング・イズ・アライヴ』(00)、『フィア・ミー・ノット(英題)』(08)のクリスチャン・レヴリング監督の新作『悪党に粛清を』(14)は、南アフリカで撮影されたデンマーク製ウエスタンです。監督と共同で脚本を手がけているのは、スサンネ・ビア監督とのコラボレーションでよく知られ、レヴリングとは『キング・イズ・アライヴ』『フィア・ミー・ノット(英題)』でも組んでいるアナス・トーマス・イェンセンです。

 主人公ジョンを『アフター・ウェディング』(06)、『偽りなき者』(12)、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)のマッツ・ミケルセン、兄のピーターを『未来を生きる君たちへ』(10)、『ヒプノティスト‐催眠‐』(12)のミカエル・パーシュブラント、声を失った女マデリンを『ダーク・シャドウ』(12)、『300<スリーハンドレッド>〜帝国の進撃〜』(14)のエヴァ・グリーンが演じています。

 蒸気機関車、駅馬車、荒野、砂漠、馬、埃まみれの町、善良な住人と冷酷な悪党。映画は、純正西部劇のクリシェに満ちているように見えますが、一方には異質な要素、あるいはキャラクターの立場を曖昧にするような要素がちりばめられてもいます。

 ジョンとピーターの兄弟はデンマーク系の移民です。デンマークで兵士だった彼らは、1864年のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争でプロイセンに敗れ、新天地を求めてアメリカにやって来たという設定になっています。そこでドラマには、英語にデンマーク語が混じり、スペイン語も盛り込まれています。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   クリスチャン・レヴリング
Kristian Levring
脚本 アナス・トーマス・イェンセン
Anders Thomas Jensen
撮影 ジョン・スクロッサー
Jens Schlosser
編集 ペニッル・ベック・クリステンセン
Pernille Bech Christensen
音楽 カスパー・ワインディング
Kasper Winding
 
◆キャスト◆
 
ジョン   マッツ・ミケルセン
Mads Mikkelsen
マデリン エヴァ・グリーン
Eva Green
ピーター ミカエル・パーシュブラント
Mikael Persbrandt
デラルー大佐 ジェフリー・ディーン・モーガン
Jeffrey Dean Morgan
コルシカ人 エリック・カントナ
Eric Cantona
ポール マイケル・レイモンド=ジェームズ
Michael Raymond-James
キーン ジョナサン・プライス
Jonathan Pryce
マリック ダグラス・ヘンシュオール
Douglas Henshall
マリー ナナ・オーランド・ファブリシャス
Nanna Oland Fabricius
-
(配給:クロックワークス/東北新社)
 

 舞台となるブラック・クリークを支配する冷酷なデラルー大佐は、生粋の悪人に見えますが、先住民を駆逐していく過程で人格が変貌したという背景があります。マデリンはかつて先住民に囚われ、舌を切られて声を失い、その後、デラルーの弟に救われ彼の妻になりましたが、彼女がそんな過去をどう思っているのかは想像に委ねられています。

 また、彼らのドラマの背景では、スタンダード・アトランティック・オイルという企業が糸を引いています。ブラック・クリークという地名は、水に原油の黒い色が混じることからきています。そういう意味では、デラルー大佐は悪党ですが、必ずしも絶対的な権力者とはいえません。

 こうした要素がもっと掘り下げられていたら、この映画は異色の興味深い西部劇になったと思いますが、レヴリング監督の演出は、クリシェの方に力が入っているようです。

 あとこの映画に関しては、個人的に想像を逞しくして楽しんだところがあります。レヴリングとイェンセンのコンビの『キング・イズ・アライヴ』は、不毛の砂漠のなかで孤立してしまった人々が「リア王」を演じる話でした。この『悪党に粛清を』を、南アフリカの荒野でデンマーク人やスウェーデン人、その他のキャストが西部劇を演じる物語と解釈すると、アレックス・コックス監督の『ストレート・トゥ・ヘル』に通じる世界が見えてくるような気がします。


(upload:2015/05/02)
 
 
《関連リンク》
クリスチャン・レヴリング 『フィア・ミー・ノット(英題)』 レビュー ■
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