ベルリン国際映画祭で銀熊賞に輝いたニコライ・アーセル監督の『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』は、史実に基づく作品で、18世紀後半のデンマーク王室を舞台に、王と王妃、そして侍医の三角関係が描かれる。そういう意味では副題に誤りがあるわけではないが、決してそれだけの映画ではない。
その三者の関係こそが、非常に短い期間ではあったもののいち早く当時の啓蒙思想を反映した政策を打ち出し、後進国だったデンマークがヨーロッパの注目を集めることになったと書けば、スキャンダルとは違った関心が膨らむのではないだろうか。
物語は、英国王太子の娘カロリーネがデンマーク王クリスチャン7世のもとに嫁ぐところから始まる。だが、精神を病んだ王に屈辱され、心を閉ざした彼女は宮廷のなかで孤立していく。
一方、ヨーロッパ外遊の旅に出た王は、その途上で精神状態が悪化し、ハンブルクで動きがとれなくなる。そんなときドイツ人の医師ストルーエンセの前に、かつて権力争いによってデンマークの宮廷を追われた伯爵が現れる。彼はストルーエンセを王の侍医に推薦し、そのツテで自分も側近に返り咲こうと画策していた。
こうしてデンマーク人の王とイギリス人の王妃とドイツ人の侍医が出会い、彼らの関係が予想もしない変革を生み出すことになる。確かにストルーエンセは啓蒙思想に傾倒し、匿名で著書も出していたが、革命を起こそうなどと思っていたわけではない。
ところが、宮廷で孤立する一方で、平民が置かれた過酷な状況に心を痛めていたカロリーネは、彼の思想に共感を覚え、王の権力を利用するように示唆する。そして、これまで枢密院の操り人形にされ、不満を募らせてきた王も、信頼する侍医が書いた台本を受け入れ、改革が現実のものとなっていく。
つまり、男女の関係と分かちがたく結びついているがために、本来なら相応の犠牲を払うことを余儀なくされる大変革が可能になってしまうのだ。しかしそれだけに三角関係のバランスが崩れると、ストルーエンセは独裁者に変貌し、追い詰められていくことになる。これが脚色ではなく、史実に忠実な物語だというのだからなんとも驚きだ。 |