アリス・イン・ワンダーランド
Alice in Wonderland  Alice in Wonderland
(2010) on IMDb


2010年/アメリカ/カラー/109分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

19歳になったアリスのイニシエーション
鍵を握るのはふたつの世界を隔てる境界だが――

 

[ストーリー] 19歳に成長したアリスは、パーティを抜け出し、白うさぎを追いかけて大きな穴に落ちてしまう。行き着いた先は<ワンダーランド>。そこでアリスは、マッドハッター、白の女王、赤の女王など、摩訶不思議な住人たちと出会う。マッドハッターは、アリスこそがワンダーランドの独裁者 赤の女王による支配を終わらせることのできる“救世主”だと信じていた。いつの間にかワンダーランドの運命を背負ってしまったアリスは、赤の女王との戦いに巻き込まれていく――。

 ティム・バートンは、自分が成長できない子供のままの人間のように見られることに抵抗を覚えていた。だからこそ、イニシエーション(通過儀礼)にこだわるのだろう。

 たとえば、『スリーピー・ホロウ』は、古典的な奇談をそのまま描くだけならゴシックホラーの枠から踏み出すことはなかったはずだ。しかし、主人公が背負う少年時代のトラウマという要素が加えられることで、殺人事件の捜査と過去の悪夢が深く結びつき、事件の謎を解き明かすことがトラウマを克服することにつながる。

 『アリス・イン・ワンダーランド』の場合も、ルイス・キャロルの世界を土台に、イニシエーションを強調する物語が作り上げられている。望まぬ結婚を強要されかけた19歳のアリスは、再びワンダーランドに迷い込む。だが今度は父親の庇護下にあったときのように、夢から醒めることはできない。そんな世界で変容を遂げた彼女は、現実世界で旧弊なジェンダーの壁を越えることになる。


◆スタッフ◆
 
監督   ティム・バートン
Tim Burton
原作 ルイス・キャロル
Lewis Carroll
脚本 リンダ・ウォールヴァートン
Linda Woolverton
撮影 ダリウス・ウォルスキー
Dariusz Wolski
編集 クリス・レベンソン
Chris Lebenzon
音楽 ダニー・エルフマン
Danny Elfman
 
◆キャスト◆
 
アリス   ミア・ワシコウスカ
Mia Wasikowska
マッドハッター ジョニー・デップ
Johnny Depp
赤の女王 ヘレナ・ボナム=カーター
Helena Bonham Carter
白の女王 アン・ハサウェイ
Anne Hathaway
ハートのジャック クリスピン・グローヴァー
Crispin Glover
トウィードルダムとトウィードルディー マット・ルーカス
Matt Lucas
白うさぎ マイケル・シーン
Michael Sheen
青い芋虫 アラン・リックマン
Alan Rickman
-
(配給:ディズニー)
 

 だが、この物語には物足りなさが残る。バートンが紡ぎ出す物語は、そのほとんどがふたつの世界を土台にしている。それは、カリフォルニア州バーバンクのサバービアにおける以下のような経験に起因している。

「ホラー映画を観ながら成長して、どういうわけか僕は、ゴシック/フランケンシュタイン/エドガー・アラン・ポオ的なもの全部と、郊外で成長するっていうこととの間に直接の感情的つながりを常に見いだすことができた」(『ティム・バートン 映画作家が自身を語る』)

 バートンのユニークさは、まったく相容れないはずのふたつの要素が分かちがたく結びつき、ひとつの世界を作り上げてしまうところにある。つまり、彼にとって郊外とホラーの世界は、同じようにリアルで、同じように現実離れしている。だから、短編『ヴィンセント』では、郊外の日常とゴシックホラーのイメージが瞬時に切り替わり、短編『フランケンウィニー』と長編化された『フランケンウィニー』では、郊外と『フランケンシュタイン』が融合し、『シザーハンズ』では、パステルカラーの郊外とゴシック風の城があっけらかんと接続され、『ビッグ・フィッシュ』や『ティム・バートンのコープスブライド』では、それぞれにほら話と事実、生者と死者の世界の境界が崩れていく。

 『アリス・イン・ワンダーランド』の前半部では、ワンダーランドに迷い込んだアリスが、何度も頬をつねるが、夢から醒めることはない。それは、ワンダーランドが同じようにリアルであることを意味している。だが、この映画のなかに存在するふたつの世界がそれ以上に深く結びついていくことはない。境界が揺らがないと、ワンダーランドという他界やイニシエーションに、バートンならではの独自性が希薄になる。だからどうしても物足りなさが残ってしまう。

《参照/引用文献》
『ティム・バートン 映画作家が自身を語る』マーク・ソールズベリー編●
遠山純生訳(フィルムアート社、2011年)

(upload:2014/12/25)
 
 
《関連リンク》
ティム・バートン論――パステルカラーの郊外とゴシックホラーをめぐる物語 ■
ティム・バートン 『ビッグ・アイズ』 レビュー ■
ティム・バートン 『フランケンウィニー』 レビュー ■
ティム・バートン 『ビッグ・フィッシュ』 レビュー ■
ティム・バートン 『スリーピー・ホロウ』 レビュー ■
ティム・バートン 『エド・ウッド』 レビュー ■
ティム・バートン 『シザーハンズ』 レビュー ■
ベン・ザイトリン 『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 レビュー ■
フアン・アントニオ・バヨナ 『インポッシブル』 レビュー ■

 
 
 
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