フランケンウィニー
FRANKENWEENIE


2012年/アメリカ/モノクロ&カラー/87分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

サバービアというすべてが交換可能な世界で
愛着を持つがゆえに一線を超えるヴィクター

 

[ストーリー] 郊外の町ニュー・オランダで暮らすヴィクターは、科学に夢中の10歳の少年。陽気な愛犬スパーキーは、かけがえのない相棒だ。だがある日、不幸な事後がスパーキーの命を奪ってしまう。その死を受け入れられないヴィクターは、なんと“禁断の実験”によってスパーキーを甦らせてしまった。それは、決して誰にも知られてはいけない秘密。ところが、その秘密をクラスメイトたちに知られてしまい――とんでもない大事件が![プレスより]

 ティム・バートンのストップモーション・アニメーション作品『フランケンウィニー』には、ふたつの起源があるといえる。

 ひとつは、カリフォルニア州バーバンクのサバービアで育ったバートンの少年時代の記憶だ。「彼は、5歳から9歳の頃に犬を飼い、特別な絆で結ばれ、そして初めて永遠の別れを経験した」(プレスより)。

 もうひとつは、バートンがディズニーのアニメーター時代に監督した実写による短編『フランケンウィニー』(84)だ。バートンはサバービアでホラー映画を観ながら成長した。なかでも特に、『アッシャー家の惨劇』(60)に始まるエドガー・アラン・ポー作品の映画化シリーズの主演で不動の地位を築いた俳優ヴィンセント・プライスやジェームズ・ホエール監督の『フランケンシュタイン』(31)に傾倒していた。この短編では、愛犬の記憶と『フランケンシュタイン』の物語が融合し、主人公の少年が死んだ愛犬を雷の力で生き返らせ、隣人たちを騒動に巻き込んでいく。

 長編として甦った『フランケンウィニー』を観て、筆者がまず思い出すのは、郊外生活に関するバートンの以下のような発言だ。

「郊外で育つってことは、歴史に対する感覚や、文化に対する感覚、何かへの情熱に対する感覚のない場所で育つってことなんだ。人々が音楽を好きだなんて思えなかった。感情が表に出てなかったんだ。ほんとに奇妙だったよ。『なんであんなものがあるんだ? 僕はどこにいるんだ?』って感じ。ものごとに対する愛着があるなんて思えなかった。だから順応して自分の個性の大部分を殺すか、自分はみんなと関係を断っていると感じさせてくれるだけの、すごく強力な精神生活を発達させるかの、どちらかを強いられるんだ」(『ティム・バートン 映画作家が自身を語る』)

 この発言でのなかでもここで特に注目したいのは、もちろん「愛着」だ。バートンの犬への愛着が表れているのは、先述した短編だけではない。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』には、幽霊になった犬ゼロが、『ティム・バートンのコープスブライド』には、骸骨になった犬スクラップスが登場する。


◆スタッフ◆
 
監督/原案/製作   ティム・バートン
Tim Burton
脚本 ジョン・オーガスト
John August
撮影監督 ピーター・ソーグ
Peter Sorg
編集 クリス・リーベンソン、マーク・ソロモン
Chris Lebenzon, Mark Solomon
音楽 ダニー・エルフマン
Danny Elfman
 
◆キャスト◆
 
スーザン・フランケンシュタイン/体育の先生/フシギちゃん   キャサリン・オハラ
Catherine O’Hara
トシアキ/ボブ/ブルゲマイスター町長 マーティン・ショート
Martin Short
ジクルスキ先生 マーティン・ランドー
Martin Landau
ヴィクター・フランケンシュタイン チャーリー・ターハン
Charlie Tahan
エドガー アッティカス・シェイファー
Atticus Shaffer
エルザ・ヴァン・ヘルシング ウィノナ・ライダー
Winona Ryder
-
(配給:ウォルト・ディズニー・
スタジオ・ジャパン)
 

 今回の長編には、ヴィクターが愛犬を生き返らせたことを知ったクラスメイトたちが、同じ方法でそれぞれに死んだ自分のペットを生き返らせるというエピソードが加えられている。しかし、その結果は同じではない。生き返ったスパーキーの身体はつぎはぎだらけで、シッポが取れてしまったり、飲んだ水が縫い目から溢れてしまったりするが、中身は変わらない。これに対して、クラスメイトたちが生き返らせたペットはみな、ただの怪物になる。それは、彼らに愛着がなかったからだろう。

 さらにもうひとつ、短編と違うところは、群集心理の表現がスケールアップしていることだ。これも『ティム・バートン 映画作家が自身を語る』に書かれていることだが、バートンは、ホラー映画に描かれる群集心理とサバービアの住人の行動に繋がりを見出した。それはたとえば、『シザーハンズ』で、エドワードを迎え入れた住人たちが、彼を思い通りにできないことがわかると、コミュニティの敵であるかのようなレッテルを貼り、排除していくところに表れている。

 短編の『フランケンウィニー』は、実写だったこともあり、群集心理を十分に描くことはできなかった。この長編では、サバービアに突然、騒ぎが巻き起こるのではなく、ブルゲマイスター町長が主催する一大フェスティバル“オランダ・デー”という特別な舞台が用意されている。この郊外の町の名前はニュー・オランダで、オランダ系の移民に起源があるものと思われる。

 ちなみに、この町長は自分の家の庭を異常に大事にし、そこに植えたチューリップなどを脅かす存在に我慢がならない人物として描かれている。そこで筆者は、サバービアを舞台にしたジョン・アップダイクの小説『カップルズ』に登場するオランダ系の建築家ピエット・ハネマのことを思い出した。彼の考え方は、以下のように表現されていた。

「世界のうちどれだけの区画を所有しているのかというオランダ人らしい堅実な意識は、敷地が道路から二百フィートひっこんでいて、町の中央から一マイル、海から四マイル離れていることですっかり満足していた」

 この長編では、住人たちが集うオランダ・デーに、ヴィクターのクラスメイトたちが生き返らせた怪物が押し寄せることで、群集心理が浮き彫りにされる。その後につづくラストは、短編をほぼそのまま継承しているが、群集心理と怪物がそれを際立たせる役割を果たしている。

《参照/引用文献》
『ティム・バートン 映画作家が自身を語る』マーク・ソールズベリー編●
遠山純生訳(フィルムアート社、2011年)
『カップルズ』ジョン・アップダイク●
宮本陽吉訳(新潮社、1970年)

(upload:2014/12/19)
 
 
《関連リンク》
ティム・バートン論――パステルカラーの郊外とゴシックホラーをめぐる物語 ■
ティム・バートン 『ビッグ・フィッシュ』 レビュー ■
ティム・バートン 『スリーピー・ホロウ』 レビュー ■
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