スリーピー・ホロウ
Sleepy Hollow


1999年/アメリカ/カラー/106分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

“首なし”殺人事件の謎を解くことは
トラウマを克服することにもつながる

 

[ストーリー] ときは1799年。ニューヨーク市警のイカボッド・クレーンがスリーピー・ホロウにやって来る。自慢の科学的捜査で“首なし”連続殺人事件の解明に乗り出すクレーン。しかし、古くからの恐ろしい因襲に囚われた村の人々は、犯人がかつてこの村で首を切られた騎士の亡霊だと信じていた。

 村を仕切る長老たちのあやしげな行動。森の奥深くに不気味にそびえ立つ“死人の木”。そして、実際に姿を現した“首なし騎士”――。地主の娘カトリーナと、父親を殺された少年マスバスの協力で謎に満ちた事件を追うクレーンは、やがて“首なし騎士”の背後にいる黒幕の存在を嗅ぎつける。しかし、事件は二転三転、村人たちの全員が血縁関係にあるというこの村では、調べれば調べるほど、全ての村人があやしく見えてくるのだった――。[プレスより]

 『スリーピー・ホロウ』の原作は、19世紀前半に活躍した作家ワシントン・アーヴィング(1783‐1859)の『スケッチ・ブック』に収められた一編「スリーピー・ホローの伝説」。『セブン』で注目された脚本家アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが、その古典的な奇談にミステリーやアクション、ロマンスなどの要素を盛り込み、独自の世界にまとめ上げている。

 それをもとにティム・バートンが生み出した映像とキャラクターで、まず際立つのは、彼が好むゴシックホラーのテイストだ。彼は少年時代からハマー・フィルムのホラーやヴィンセント・プライス主演でエドガー・アラン・ポーの作品を映画化したシリーズの大ファンだった。この映画にはそうした愛着がはっきりと表れている。

 しかし、単に好みが反映されているだけではない。重要なのは、主人公イカボッドが背負うトラウマだ。彼はなぜ奇妙な装置を持ち歩き、滑稽に見えるほどに科学的な捜査にこだわるのか。必ずしも進歩する科学技術の力を信じているからではない。

 彼が信奉する合理的な思考は、“首なし騎士”の存在を目の当たりにしてあっさりと揺らぎ、眠りのなかで過去の悪夢が甦る。彼が愛する母親は、父親から魔女と疑われ、悲惨な運命をたどった。彼はそんな恐怖から逃れるために、科学にのめり込んでいるともいえる。

 この映画は、そんな過去の悪夢と現在の事件の捜査が絡み合い、しだいに魔女の存在が鍵を握るような展開をみせる。そこで興味深いのは、魔女に対する視点が変化していくことだ。魔女、あるいは魔術を使う女性が常に排斥されるべきものであるならば、誰が魔女なのか、母親は魔女だったのかという疑問に答を出すだけで終わる。

 だが、それでは事件は解決できないだろう。イカボッドがそんな二元論から踏み出すとき、彼はトラウマも克服することになる。そこに、サバービアという画一的な世界のなかで、ゴシックホラーの世界により豊かな感情を見いだしていたバートンならではの感性を見ることができる。


◆スタッフ◆
 
監督   ティム・バートン
Tim Burton
脚本 アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
Andrew Kevin Walker
原作 ワシントン・アーヴィング
Washington Irving
撮影監督 エマニュエル・ルベツキー
Emmanuel Lubezki
編集 クリス・レベンソン
Chris Lebenzon
音楽 ダニー・エルフマン
Danny Elfman
 
◆キャスト◆
 
イカボッド・クレーン   ジョニー・デップ
Johnny Depp
カトリーナ・ヴァン・タッセル クリスティーナ・リッチ
Christina Ricci
ヴァン・タッセル夫人 ミランダ・リチャードソン
Miranda Richardson
バルタス・ヴァン・タッセル マイケル・ガンボン
Michael Gambon
ブロム・ヴァン・ブラント キャスパー・ヴァン・ディーン
Casper Van Dien
トーマス・ランカスター医師 イアン・マクダーミッド
Ian McDiarmid
ジェームズ・ハーデンブルック公証人 マイケル・ガフ
Michael Gough
ニューヨーク市長 クリストファー・リー
Christopher Lee
スティーンウィック牧師 ジェフリー・ジョーンズ
Jeffrey Jones
ヤング・マスバス マーク・ピッカリング
Marc Pickering
レディ・クレーン(イカボッドの母) リサ・マリー
Lisa Marie
首なし騎士 クリストファー・ウォーケン
Christopher Walken
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(配給:日本ヘラルド)
 

 


(upload:2014/09/28)
 
 
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