[ストーリー] ときは1799年。ニューヨーク市警のイカボッド・クレーンがスリーピー・ホロウにやって来る。自慢の科学的捜査で“首なし”連続殺人事件の解明に乗り出すクレーン。しかし、古くからの恐ろしい因襲に囚われた村の人々は、犯人がかつてこの村で首を切られた騎士の亡霊だと信じていた。
村を仕切る長老たちのあやしげな行動。森の奥深くに不気味にそびえ立つ“死人の木”。そして、実際に姿を現した“首なし騎士”――。地主の娘カトリーナと、父親を殺された少年マスバスの協力で謎に満ちた事件を追うクレーンは、やがて“首なし騎士”の背後にいる黒幕の存在を嗅ぎつける。しかし、事件は二転三転、村人たちの全員が血縁関係にあるというこの村では、調べれば調べるほど、全ての村人があやしく見えてくるのだった――。[プレスより]
『スリーピー・ホロウ』の原作は、19世紀前半に活躍した作家ワシントン・アーヴィング(1783‐1859)の『スケッチ・ブック』に収められた一編「スリーピー・ホローの伝説」。『セブン』で注目された脚本家アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが、その古典的な奇談にミステリーやアクション、ロマンスなどの要素を盛り込み、独自の世界にまとめ上げている。
それをもとにティム・バートンが生み出した映像とキャラクターで、まず際立つのは、彼が好むゴシックホラーのテイストだ。彼は少年時代からハマー・フィルムのホラーやヴィンセント・プライス主演でエドガー・アラン・ポーの作品を映画化したシリーズの大ファンだった。この映画にはそうした愛着がはっきりと表れている。
しかし、単に好みが反映されているだけではない。重要なのは、主人公イカボッドが背負うトラウマだ。彼はなぜ奇妙な装置を持ち歩き、滑稽に見えるほどに科学的な捜査にこだわるのか。必ずしも進歩する科学技術の力を信じているからではない。
彼が信奉する合理的な思考は、“首なし騎士”の存在を目の当たりにしてあっさりと揺らぎ、眠りのなかで過去の悪夢が甦る。彼が愛する母親は、父親から魔女と疑われ、悲惨な運命をたどった。彼はそんな恐怖から逃れるために、科学にのめり込んでいるともいえる。
この映画は、そんな過去の悪夢と現在の事件の捜査が絡み合い、しだいに魔女の存在が鍵を握るような展開をみせる。そこで興味深いのは、魔女に対する視点が変化していくことだ。魔女、あるいは魔術を使う女性が常に排斥されるべきものであるならば、誰が魔女なのか、母親は魔女だったのかという疑問に答を出すだけで終わる。
だが、それでは事件は解決できないだろう。イカボッドがそんな二元論から踏み出すとき、彼はトラウマも克服することになる。そこに、サバービアという画一的な世界のなかで、ゴシックホラーの世界により豊かな感情を見いだしていたバートンならではの感性を見ることができる。 |