セブン
Seven


1995年/アメリカ/カラー/126分/シネマスコープ/ドルビーSRD・DTS
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(初出:「GQ Japan」、若干の加筆)

 

 

リドリー・スコットVS. デイヴィッド・フィンチャー
外的な闘争は内的な葛藤へと鮮やかに切り換わる

 

 デイヴィッド・フィンチャー監督の新作『セブン』では、世紀末を象徴する大都会を舞台に、キリスト教における七つの大罪をモチーフにしたグロテスクな殺人を繰り返す凶悪犯とそれを追うふたりの刑事たちの姿が描かれる。

 この映画は、切れのある演出とショッキングな映像が際立つサイコスリラーであるばかりでなく、監督フィンチャーの作家性が鮮明に浮かび上がり、実に見応えのある作品になっている。

 筆者がまず注目したいのは、フィンチャーが作り上げる都市とそのなかで犯人を追う刑事のイメージだ。舞台となる都市は、具体的な場所が明示されない世紀末の象徴的な世界で、降りしきる雨に完全に光を奪われ、暗く頽廃的な雰囲気に支配されている。

 そして、そんな世界のなかで、ブラッド・ピット扮する駆けだしの刑事が、犯人を追って信号待ちの車の上を飛び越えていったり、あるいは、薄暗い路地で犯人の逆襲にあい、ゴミ袋と清掃車のあいだの水たまりにうずくまる。

 となれば、思い出されるのは、リドリー・スコットの『ブレードランナー』だ。実際、2本の映画の舞台が、ロケについてはロサンゼルスの街をそれぞれの設定にあわせて巧みに老朽化させることからできているということを考えるなら、ダブって見えるのも不思議なことではない。

 しかしもちろん、舞台の造形やアクションに関して『ブレードランナー』を意識しているというだけなら、ことさら大騒ぎするほどのこともない。

 この作品がユニークなのは、『ブレードランナー』との接点を頭の片隅に置きながら物語をたどっていくと、さらにリドリー・スコットが、『エイリアン』に続いて『ブレードランナー』を監督し、フィンチャーが『エイリアン3 』に続いてこの『セブン』を監督したことが非常に興味深く思えてくるところにある。それぞれの監督のこの2本の映画の流れを対比してみると、『セブン』の魅力がはっきり見えてくる。


◆スタッフ◆
 
監督   デイヴィッド・フィンチャー
David Fincher
脚本 アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー
Andrew Kevin Walker
撮影監督 ダリウス・コンジ
Darius Khondji
編集 リチャード・フランシス・ブルース
Richard Francis-Bruce
タイトル・デザイン カイル・クーパー
Kyle Cooper
音楽 ハワード・ショア
Howard Shore
 
◆キャスト◆
 
ミルズ   ブラッド・ピット
Brad Pitt
サマセット モーガン・フリーマン
Morgan Freeman
トレーシー グウィネス・パルトロウ
Gwyneth Paltrow
カリフォルニア ジョン・C・マッギンリ
John C.McGinley
タルボット リチャード・ラウンドトゥリー
Richard Roundtree
ジョン・ドウ ケヴィン・スペイシー
Kevin Spacey
-
(配給:ギャガ・ヒューマックス)
 

 ふたりの男が決闘を繰り返す『デュエリスト』から出発したリドリー・スコットは、『エイリアン』でヒロインの航海士リプリーとエイリアンの激しい闘争を描き、『ブレードランナー』でも主人公のブレードランナーとレプリカントのあいだでそれを再現した。スコットの作品では、サバイバルするための熾烈な闘争が重要な位置を占めている。

 それではフィンチャーの場合はどうか。彼はまず、『エイリアン3』で“エイリアン”=闘争という図式を見事に突き崩している。というのもこの映画では、リプリーが、エイリアンからその幼生を首に埋め込まれることによって、闘争を繰り広げるはずの敵を自分の内部に抱え込むことになる。その結果、闘争とは異質な宗教的な空気が漂いだすことになる。

 そして、この『セブン』でも、『ブレードランナー』に描かれた闘争の図式が崩される。フィンチャーは、犯人のキャラクターを通して舞台となる都市を宗教的な迷宮に仕立て上げているばかりか、驚くことに、刑事と凶悪犯のあいだに『エイリアン3 』の図式を完璧に再現している。この映画の衝撃的な結末については、プロデューサーの意向で触れてはならないということなので具体的なことは何も書かないが、主人公が確実に犯人を追い詰めていくかに見えて、実はまったく異なるレベルで犯人が主人公の内面に敵を埋め込んでいる。

 『エイリアン3』と同じように外的で肉体的な闘争は成り立たない。そこにあるのは、内面の壮絶な葛藤であり、憤怒ゆえに外的な闘争を挑めば、敵が望んだ地獄絵図の創造に加担することになってしまうのだ。


(upload:2011/12/19)
 
 
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