ファイト・クラブ
Fight Club


1999年/アメリカ/カラー/139分/スコープサイズ/ドルビーデジタルSR・SRD・DTS・SDDS
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(初出:「中央公論」1999年、若干の加筆)

 

 

現代における個人と世界、自己と他者、内面と外部への洞察が
世界を覆うグローバリゼーションに強烈な揺さぶりをかける

 

[ストーリー] 高級家具に囲まれた瀟洒なコンドミニアムで暮らしているヤング・エグゼクティヴ、ジャック。さしたる目的も持たず孤独に生きてきた彼が、ある日、アナーキーで攻撃的な男タイラー・ダーデンに出会う。そして、何者かにコンドミニアムを爆破されてすべてを失ったジャックは、タイラーから彼の部屋に同居することを承知させられ、しかもその代償として彼を殴るようにたのまれる。やがて二人の殴り合いは、アンダーグラウンドのリングで行われるボクシングの試合へと発展し、タイラーは“ファイト・クラブ”の設立を宣言する。

 次々とクラブに参加してくる男たち。彼らは極限まで素手で殴り合う。変化のない日常に麻痺していた彼らは、自らの本能を揺り動かすスリルを“暴力”に求めようとする。やがてカリスマ性を帯びてきたライターは、彼らをより危険でアナーキーな行動へと駆り立て、バイオレンスだけが増幅していく。[プレスより]

 デヴィッド・フィンチャーの新作『ファイト・クラブ』の主人公は、不眠症で朦朧とした頭のなかで、これからは宇宙開発もスポンサーの名前で埋め尽くされていくと考える。グローバル化された世界では、国家の力は衰え、多国籍企業が支配力を強め、国民はひたすら消費する。

 彼は、カタログから抜け出たような生活空間で物の奴隷となり、北欧家具を磨くことで怒りやストレスを発散しようとするが、それでは生きている実感すら得られない。そこで、死に直面している他者の現実に触れることで、苦しみから逃れようとするが、独善的な姿勢は自己への幻滅に変わっていく。

 タイラーの出現はそんな彼にとって救いとなる。ファイト・クラブは、求心力を欠いた空虚な世界に新たな磁場を生み出す。彼は暴力と苦痛のなかで自己の生を確認し、満たされる。だが、フィンチャーが描き出す個人と世界、自己と他者、内面と外部の関係はそれほど単純ではない。

 『エイリアン3』では、ヒロインの体内にエイリアンの幼生が埋め込まれることによって、それ以前のシリーズに描かれたヒロインとエイリアンの外的な闘争の物語が、内的な恐怖と葛藤、犠牲の物語へと大胆に書き換えられた。『セブン』でもキリスト教の七つの大罪をモチーフにすることで、凶悪犯を追う刑事が、凶悪犯によって逆に内面に大罪という敵を埋め込まれ、壮絶な葛藤を強いられることになる。

 『ファイト・クラブ』の主人公もまた、外的な闘争によって自己を確認すると同時に、内面に敵を埋め込まれている。


◆スタッフ◆
 
監督   デヴィッド・フィンチャー
Joel Hopkins
脚本 ジム・ウールス
Jim Uhls
原作 チャック・パラニューク
Chuck Palahnuk
撮影 ジェフ・クローネンウェス
Jeff Cronenweth
編集 ジェイムズ・ヘイグッド
James Haygood
音楽 ザ・ダスト・ブラザーズ
The Dust Brothers
 
◆キャスト◆
 
ナレーター   エドワード・ノートン
Edward Norton
タイラー・ダーデン ブラッド・ピット
Brad Pitt
マーラ・シンガー ヘレナ・ボナム・カーター
Helena Bonham Carter
ロバート・ポールセン ミート・ローフ・アデイ
Meat Loaf Aday
エンジェル・フェイス ジェレッド・レト
Jared Leto
リチャード・チェスラー ザック・グルニエ
Zach Grenier
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(配給:20世紀フォックス)
 

 さらにこの映画は、前作『ゲーム』との無関係ではない。『ゲーム』では、企業が消費者に危機的な状況と超越的な体験を提供し、カタルシスを生み出すことによって、消費社会が神に成り代わろうとする。『ファイト・クラブ』の主人公は、そんな消費社会との繋がりを断ち切り、自力で超越的な体験を演出し、消費社会を象徴するカード会社へのテロによって、グローバリゼーションに強烈な揺さぶりをかけるのだ。


(upload:2014/09/23)
 
 
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