パキスタン生まれのレズ・アバシは、4歳のときに両親と南カリフォルニアに移り、ジャズとクラシックを学んで、ギタリスト/コンポーザーとしてニューヨークを拠点に活動するようになりました。そんなアバシの『Things to Come』(09)は、キャリアの到達点を示すような素晴らしい作品でしたが、この『Natural Selection』(10)では、それとは異なる方向性が提示されています。
RAAQ(レズ・アバシ・アコースティック・クァルテット)という名称のとおり、アコースティックにこだわったユニットです。メンバーは、ギターのレズ・アバシ、ヴィブラフォンのビル・ウェア、ベースのステファン・クランプ、ドラムスのエリック・マクファーソンです。ステファン・クランプは、アバシの盟友ヴィジェイ・アイヤーのピアノ・トリオでも活躍しています。ちなみに『Things to Come』のリズム隊は、ベースのヨハネス・ヴァイデンミューラー(Johannes Weidenmueller)とドラムスのダン・ワイス(Dan Weiss)でした。
楽曲はアバシのオリジナルのほかに、パキスタンのカッワーリーの巨匠だったヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの<Lament>、キース・ジャレットの<Personal Mountains>、ジョー・ヘンダーソンの<Punjab>、ビル・ウィザースの<Ain’t No Sunshine>が取り上げられています。インド系であるヴィジェイ・アイヤーやルドレシュ・マハンサッパ、アバシ夫人でもあるキラン・アルワリアが参加していた『Things to Come』と比較するとよりジャズに寄った印象を受けますが、ヌスラットのカッワーリーに音楽のひとつの理想を見るアバシの感性は、このアルバムにも感じられます。