一九八九年以降、東ヨーロッパ諸国で共産主義体制が次つぎと崩壊した後、そこに住むロマ(ジプシー)たちに何が起きたか、あるいは起きているかを、ひとりのジャーナリストが何度も現地に足を運んで書いた渾身のルポルタージュである。千年も昔にインド西部から放浪を始め、現在のイランやイラクにあたる土地からアルメニアを経てバルカン半島に辿り着き、そこからヨーロッパ各地へ広がっていったロマ民族の歴史を追い、いま各国に散逸しながらさまざまなかたちで暮らす千二百万の、ヨーロッパ最大の少数民族の現在を活写している。[「訳者あとがき」より]
レビューのテキストは準備中です。最初に読んだのはだいぶ前ですが、今回、『ノー・マンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチ監督の新作『鉄くず拾いの物語』(13)を観て、本書の内容と響き合う要素があったため、引っ張り出してみました。映画は以下のような物語です。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らすロマの一家は、ささやかながらも幸福な日々を送っていた。ある日、3人目の子供を身ごもる妻・セナダは激しい腹痛に襲われ病院へ行く。そこで医者から今すぐに手術をしなければ危険な状態だと、夫・ナフジは告げられた。しかし保険証を持っていないために、鉄くず拾いで生計を立てている彼にはとうてい支払うことのできない手術代を要求される。何度も妻の手術を懇願するも、病院側は受け入れを拒否。「なぜ神様は貧しい者ばかりを苦しめるのだ」と嘆きながら、ただ妻を家に連れて帰るしかなかった――。[『鉄くず拾いの物語』プレスより]
この映画の劇場用パンフレットにレビューを書いています。もちろん本書の記述も引用しています。
本書では、実際のロマの家族と暮らした記録から、ロマニ語の特徴、豊富な資料に基づくロマの起源についての検証やロマを襲い、多くの命を奪ったホロコーストの実態に至るまで、ロマの過去、現在、未来が掘り下げられ、非常に読み応えがあります。 |