他にも、日本での知名度は低いが、アルバロ・フェルナンデス・アルメロやフェルナンド・コロモといった監督とも複数の作品を作っている。そして、アルモドバルとは、『ボルベール<帰郷>』が3度目の顔合わせとなる。だが、ハリウッドでは、監督との共同作業がみな単発で終わっている。
もちろん、だからといって、クルスが慣れない環境では実力が発揮できないというわけではない。それは、イタリア映画『赤いアモーレ』(04)を観ればわかる。脚本に惚れ込んだ彼女は、イタリア語の猛特訓を経て撮影に臨み、愛だけに生き、男の心に深く刻み込まれていく女を渾身の演技で表現した。その努力は報われ、イタリア・アカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀主演女優賞にも輝いた。
■■新たな飛躍へ■■
これに対して『ボルベール<帰郷>』のクルスには、渾身の演技とは違う、内面から滲み出すような豊かな感情表現がある。彼女が、アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』(97)と『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)で演じたのは、どちらも望まぬ妊娠をし、子供を産んだ後で、ドラマの背景へと退いていくか、あるいは命を落としてしまう女の役だった。女優として成熟した彼女は、母親を演じるためにアルモドバルの世界に帰ってきたともいえる。
ヒロインのライムンダは、娘には語れない重い過去を背負っている。そんな彼女に予期せぬ出来事が次々と起こる。まず、娘が彼女に迫ってきた義父を殺してしまう。ライムンダはその罪をかぶり、死体を隠す。ところが今度は、火事で死んだはずの彼女の母親が戻ってくる。その母親もまた、身を隠さなければならないほど重い過去を背負っていた。
彼女たちはただならぬ問題を抱え、とても楽観できる状況にはない。にもかかわらず、ドラマが決して暗くならないのは、彼女たちの感情や共感が鮮やかに描き出されているからだ。特にクルスは、母親であると同時に娘の立場にもあるライムンダのたくましさや哀しみを、実に生き生きと表現していた。
この映画で女優として認知されたクルスは、次々に新作に出演している。彼女が、ハリウッドでもスペイン映画界のような信頼関係を築いていけば、近い将来、アメリカ映画でアカデミー賞に名前が挙がることになるだろう。
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