ペネロペ・クルス
Penelope Cruz


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(初出:「English Journal」2008年1月号)

監督との信頼関係を通して輝きを増す

■■スペインを代表する女優に■■

 ペネロペ・クルスは、2007年の第79回アカデミー賞で、主演女優賞に初めてノミネートされた。彼女にその栄誉をもたらしたのは、アメリカ映画ではなく、ペドロ・アルモドバル監督のスペイン映画『ボルベール<帰郷>』(06)だった。そのことは、彼女のキャリアを振り返るうえで、ひとつのポイントになる。

 1974年マドリッド生まれのクルスは、クラシック・バレエを学び、モデルやテレビの仕事を経て、91年に映画デビューを飾る。その後『ベルエポック』(92)と『ハモンハモン』(92)でまたたくまに頭角を現した彼女は、スペインを代表する監督たちの作品に次々に出演し、ハリウッドからも注目される存在となる。

 そして、西部劇『ハイロー・カントリー』(98)でハリウッドに進出し、『すべての美しい馬』(00)、『コレリ大尉のマンドリン』(01)、『ブロウ』(01)、そして、クルスのスペイン映画の代表作『オープン・ユア・アイズ』(97)をリメイクした『バニラ・スカイ』(01)といった作品に出演していく。

■■ハリウッドでの評価■■

 しかし、ハリウッドでは、トム・クルーズを筆頭に共演者たちとのゴシップが先行し、女優として正当に評価されているとも、本領を発揮しているともいいがたかった。彼女は演技以前に、まず何よりも英語を習得しなければならなかった。しかし、ネックは言葉の壁だけではないだろう。注目したいのは、監督と女優の信頼関係だ。

 ハリウッドに比べて、マーケットも小さく、映画人も少ないスペイン映画界では、信頼関係を築くことができる。クルスは、『ベルエポック』のフェルナンド・トルエバ監督とは『美しき虜』(98)で、『ハモンハモン』のビガス・ルナ監督とは『裸のマハ』(99)で再び手を組み、『美しき虜』では、スペイン・アカデミー賞に当たるゴヤ賞の最優秀主演女優賞に輝いている。


   《データ》
1992 『ベルエポック』
『ハモンハモン』

1997 『オープン・ユア・アイズ』
『ライブフレッシュ』

1998 『美しき虜』
『ハイロー・カントリー』

1999 『オール・アバウト・マイ・マザー』
『裸のマハ』

2000 『すべての美しい馬』

2001 『コレリ大尉のマンドリン』
『バニラ・スカイ』
『ブロウ』

2004 『赤いアモーレ』

2006 『ボルベール<帰郷>』

(注:これは厳密なフィルモグラフィーではなく、本論で言及した作品のリストです)
 
 

 他にも、日本での知名度は低いが、アルバロ・フェルナンデス・アルメロやフェルナンド・コロモといった監督とも複数の作品を作っている。そして、アルモドバルとは、『ボルベール<帰郷>』が3度目の顔合わせとなる。だが、ハリウッドでは、監督との共同作業がみな単発で終わっている。

 もちろん、だからといって、クルスが慣れない環境では実力が発揮できないというわけではない。それは、イタリア映画『赤いアモーレ』(04)を観ればわかる。脚本に惚れ込んだ彼女は、イタリア語の猛特訓を経て撮影に臨み、愛だけに生き、男の心に深く刻み込まれていく女を渾身の演技で表現した。その努力は報われ、イタリア・アカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀主演女優賞にも輝いた。

■■新たな飛躍へ■■

 これに対して『ボルベール<帰郷>』のクルスには、渾身の演技とは違う、内面から滲み出すような豊かな感情表現がある。彼女が、アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』(97)と『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)で演じたのは、どちらも望まぬ妊娠をし、子供を産んだ後で、ドラマの背景へと退いていくか、あるいは命を落としてしまう女の役だった。女優として成熟した彼女は、母親を演じるためにアルモドバルの世界に帰ってきたともいえる。

 ヒロインのライムンダは、娘には語れない重い過去を背負っている。そんな彼女に予期せぬ出来事が次々と起こる。まず、娘が彼女に迫ってきた義父を殺してしまう。ライムンダはその罪をかぶり、死体を隠す。ところが今度は、火事で死んだはずの彼女の母親が戻ってくる。その母親もまた、身を隠さなければならないほど重い過去を背負っていた。

 彼女たちはただならぬ問題を抱え、とても楽観できる状況にはない。にもかかわらず、ドラマが決して暗くならないのは、彼女たちの感情や共感が鮮やかに描き出されているからだ。特にクルスは、母親であると同時に娘の立場にもあるライムンダのたくましさや哀しみを、実に生き生きと表現していた。

 この映画で女優として認知されたクルスは、次々に新作に出演している。彼女が、ハリウッドでもスペイン映画界のような信頼関係を築いていけば、近い将来、アメリカ映画でアカデミー賞に名前が挙がることになるだろう。


(upload:2011/12/03)
 
 
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