[ストーリー] 物語の舞台となるのは、世界遺産のトルコ・カッパドキアに佇むホテル。親から膨大な資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らすアイドゥン。しかし、若く美しい妻ニハルとの関係はうまくいかず、一緒に住む妹ネジラともぎくしゃくしている。さらに家を貸していた一家からは、思わぬ恨みを買ってしまう。
やがて季節は冬になり、閉ざされた彼らの心は凍てつき、ささくれだっていく。窓の外の風景が枯れていく中、鬱屈した気持ちを抑えきれない彼らの、終わりのない会話が始まる。善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは? 他人を愛することはできるのか――。
互いの気持ちは交わらぬまま、やがてアイドゥンは「別れたい」というニハルを残し、一人でイスタンブールへ旅立つ決意をする。しかし、彼が立ち去るのを阻むように降りしきる大雪がもたらしたのは、彼が愛する妻のもとに戻ることだった。やがて雪は大地を真っ白に覆っていく。彼らに、新しい人生の始まりを告げるように。[プレスより引用]
[以下、本作のレビューになります]
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いたトルコの異才ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『雪の轍』は、カッパドキアに建つ小さなホテルを舞台にしている。そこには、親から膨大な資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーでもある元舞台俳優のアイドゥン、若く美しい妻ニハル、離婚して出戻ったアイドゥンの妹ネジラが暮らしている。この映画では、やがて冬になり一帯が雪に覆われる時期を背景に、彼らの愛憎劇が描き出される。
その上映時間は3時間16分だが、決して長いとは感じない。世界遺産カッパドキアの風景と緻密な脚本によって構築された世界に引き込まれるからだ。物語が進むにつれてホテルの内部と外部の境界が際立つようになり、主人公たちは檻に閉じ込められているように見えてくる。
地元の新聞にコラムを連載するアイドゥンは、自分を中心に世界が回っているような錯覚に陥っている。俳優だった彼はホテルという舞台で演技し、妻と妹も自分の居場所を確保するために迎合してきたともいえる。 |