『熱波』の物語は、現代ポルトガルの都市を舞台にした「楽園の喪失」と植民地時代のアフリカを舞台にした「楽園」の二部で構成されている。『約束の地』は、誰もたどり着いたことのない伝説の理想郷“ハウハ(Jauja)”への言及から始まり、本編からは植民地主義や白人優越主義が浮かび上がり、さらに異なる時代への跳躍が起こる。
『熱波』の画面サイズはスタンダードが採用され、映像はモノクロで撮影されている。二部では、サイレントの映像にナレーションを重ねるような独特のスタイルによって、自己と他者、回想と想像の境界が曖昧にされていく。『約束の地』では、四隅が丸みを帯びた変形スタンダード・サイズの映像が生み出されている。演出ではサイレントが意識され、ナレーションを通して現実と幻想、自己と他者の境界が曖昧にされていく。
そしてもうひとつ見逃せないのが、幽霊の噂だ。『熱波』には、幽霊にまつわるプロローグがある。そこに登場する男は、最愛の妻を亡くした喪失感から逃れるために、アフリカの未開の地を突き進むが、妻の幻影はどこまでもつきまとう。ならば死ぬしかないと彼はワニが潜む川に身を投げる。その後、一帯には物憂げなワニと女性の幽霊を見たという迷信じみた噂が絶えることがなかった。
『約束の地』では、主人公ディネセンの愛娘インゲボルグが姿を消す以前に、荒野に消えた大佐の噂が飛び交っている。そして、娘を探すディネセンの旅にも、姿を消した大佐の気配が漂う。さらにこの映画では、自分を傷つける犬の存在が、『熱波』におけるワニの役割を果たしているともいえる。
ミゲル・ゴメスと同じように、リサンドロ・アロンソも、消え去ったもの、あるいはその痕跡を独自の視点と表現で掘り下げている。『約束の地』で消え去るのは、大佐や娘だけではない。犬は不在の主を恋しがって自分を傷つけていたことがわかる。娘が拾う兵隊の人形も消え去ったものの痕跡であり、それは時空を超えて登場人物たちに語りかける。
消え去ったものの噂を耳にし、消え去ったものを追い、消え去ったものの痕跡に触れるディネセンの旅には、やがて始まりも終わりもなくなり、生と死の境界すら消え去ることになる。 |