「アイスランドの銀行を崩壊させた詐欺的な計算方法は、南極で最大の氷の層をも崩壊させたのだ――それも同じ年に。アイスランド経済がメルトダウンしているさなかに、南極半島にあって一〇〇年にわたってほぼ安定していた巨大なウィルキンス棚氷が崩れはじめた」
「気候と生物の多様性に関する二〇〇八年と二〇〇九年の研究に目を通すと、愕然とするはずだ。気候変動と生物の多様性の喪失が数年前の予想よりもはるかに早く、なおかつ大きな影響を及ぼしていることを、世界最高の科学者たちが警告している」
「おなじメルトダウン、おなじリスクの大きいビジネス。シティバンクとアイスランドの銀行の経営幹部が、莫大なデフォルトや損失の真のリスクを反映しない無茶な金融事業にいそしんでいたのとおなじように、不動産開発業者、石油会社、石炭会社、自動車メーカー、電力会社は、炭化水素を使うエネルギー、移動手段、照明、暖房、冷房を、地球にかかるコストを反映しない価格で売ってきた気候を変動させるCO2の分子を大気中に蓄積してきた。そして、CO2を排出するこうした不当な安値のエネルギー源を利用する私たち全員が、その利益を私物化してきた」
このドキュメンタリーの主人公ジェフは、刺激に満ちた旅のなかで環境問題と向き合うことになる。彼が出会ったマコヘの友人ラモンの家は漁師で、家訓は“勤勉・質素・海への敬意”だった。だが、水産会社が彼らの村に進出して魚が獲れなくなった。おそらく乱獲が行われたのだろう。海岸にはパルプ工場が並び、海は廃液で汚染されている。そして川の上流ではダムの建設が計画されている。
その村から今度はサンティアゴを訪れる。LAよりも人工が多いというこの大都市で彼は、巨大なショッピングモールや建設中の南米一の高層ビルを目にする。こうした都市にエネルギーを供給するためにダムが必要とされる。そのダムについては、別の政治的な背景にも言及される。独裁政権時代に政府が民間企業に水利権を与えてしまい、その結果、スペインの電力会社が次々とダムのプロジェクトを打ち出してきたのだという。
この映画では、そうした現実を踏まえ、イヴォンとダグの環境問題への取り組みに光が当てられる。彼らはこの20年近く、保護プロジェクトに尽力してきた。ダグとクリスのトンプキンス夫妻は、経営難に陥った牧場など一帯の土地(野球場17万個分に相当するという)を私財を投じて購入し、保護し、国立公園にしてチリ人に返す計画を進めている。日本では水資源をめぐる土地の買収が注目を集めている時期だけに、考えさせられる試みである。
ジェフは、環境問題について考えるたびに、ある事を思い出す。それは、イースター島に滞在する場面で語られる。彼は、ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』を引用して(具体的には第2章の「イースターに黄昏が訪れるとき」)、この島の文明の崩壊を説明する。
要約するとこういうことになる。1700年代、ヨーロッパ人が島にやってきたとき、どのモアイ像も立っていた。だが人口が増えると島民は部族に分かれ、より大きなモアイ像を作ることにしのぎを削った。そして巨大な石像を運ぶために、島中の木を切り倒した。資源を使い果たすほど石像作りに執着した結果、戦争や共食いが起き、島の人口は3万から111人まで減少した。
ジャレド・ダイアモンドは、孤立したイースター島における文明の崩壊を孤立した地球のメタファーとしていたが、ジェフもこの旅のなかでそれをリアルに感じているように見える。 |