昨年(2009年)公開された邦画のなかで最も印象に残った作品の一本が、中嶋莞爾監督の商業映画デビュー作『クローンは故郷をめざす』だった。近未来を舞台にしたこの映画では、及川光博が、危険な作業に従事する宇宙飛行士と彼の死後に再生された二人のクローンという一人三役を演じていた。
あのデヴィッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズの監督デビュー作『月に囚われた男』では、たった一人で月面基地に派遣され、地球に不可欠なエネルギー源を採掘する男サムの生活が描かれる。ドラマは一人芝居に近いが、主演のサム・ロックウェルは一人三役をこなす。と書けば、映画にどんな仕掛けが埋め込まれているのか察せられるだろう。
サムはあと二週間で、ルナ・インダストリーズとの契約期間が終わる。そうすれば地球に帰還し、妻子と再会できる。しかし最近では、長期に渡る孤独な生活の影響か、激しい頭痛に襲われ、幻覚や幻聴に悩まされている。そんなとき、ルナローバーの操縦中に事故を起こし、基地内の診療室で意識を取り戻すと、そこには自分にそっくりな男がいた。
低予算(製作費はわずか500万ドルだという)を逆手に取る巧妙な設定、曖昧になっていく生と死の境界、そして野心や利益のために生命を弄び、個人をないがしろにする科学者や企業。二人の映像作家が、同時期に似た発想で実に興味深いSF映画を作っていたことになる。
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