スペクタキュラー・ナウ(原題)
The Spectacular Now


2013年/アメリカ/カラー/95分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

呪縛から自己を解き放つイニシエーションの物語

 

[ストーリー] 高校の卒業を控えたサッターには将来の夢や目標もなく、パーティに通い、酒に溺れ、女の子を追い回すことしか頭にない。ガールフレンドのキャシディは先のことを考えないサッターに嫌気がさし、別の男子マーカスと付き合うようになる。そんなとき、サッターは偶然にエイミーに出会う。

 エイミーは学校ではまったく目立たず、SFやコミックに熱中していて、母親のバイトを手伝って新聞を配達するような女の子だった。そんなエイミーに興味を持ったサッターは、彼女をパーティに誘い、酒の味を覚えさせる。そして、大学への道が開けていながら、母親や弟のことを気にかけ、家族に縛られている彼女に自立をうながす。だがやがて、今度はエイミーがサッターに影響を及ぼすようになり、彼は自分と向き合おうとするが――。

 『スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜』(12)につづくジェームズ・ポンソルト監督の長編第3作『スペクタキュラー・ナウ(原題)』(13)は、ティム・サープの同名YA小説の映画化で、『(500)日のサマー』(09)で成功を収めたスコット・ノイスタッターマイケル・H・ウェバーのコンビが脚色を手がけている。

 映画は導入部では、能天気なサッターを主人公にしたよくある学園モノのように見えるが、次第に彼を中心とした人物たちの複雑な心情が実に見事に炙り出され、私たちの心を揺さぶる。それは、キャスティングのセンスによるところも大きい。

 『ラビット・ホール』(10)のマイルズ・テラー『ファミリー・ツリー』(11)のシャイリーン・ウッドリー『ショート・ターム』(13)のブリー・ラーソン、ポンソルトの前作『スマッシュド』(12)につづく出演となるメアリー・エリザベス・ウィンステッド、そしてジェニファー・ジェイソン・リーカイル・チャンドラー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)のボブ・オデンカークといった新旧の俳優たちが、それぞれに個性を発揮している。


◆スタッフ◆
 
監督   ジェームズ・ポンソルト
James Ponsoldt
脚本 スコット・ノイスタッターマイケル・H・ウェバー
Scott Neustadter, Michael H. Weber
原作 ティム・サープ
Tim Tharp
撮影 ジェス・ホール
Jess Hall
編集 ダリン・ナヴァロ
Darrin Navarro
音楽 ロブ・シモンセン
Rob Simonsen
 
◆キャスト◆
 
サッター   マイルズ・テラー
Miles Teller
エイミー シャイリーン・ウッドリー
Shailene Woodley
キャシディ ブリー・ラーソン
Brie Larson
リッキー メイサム・ホールデン
Masam Holden
サラ ジェニファー・ジェイソン・リー
Jennifer Jason Leigh
ホリー メアリー・エリザベス・ウィンステッド
Mary Elizabeth Winstead
トミー カイル・チャンドラー
Kyle Chandler
マーカス ダイオ・オケニイ
Dayo Okeniyi
ダン ボブ・オデンカーク
Bob Odenkirk
-
(配給:)
 

 なぜ『(500)日のサマー』の脚本家コンビとポンソルトが組むことになったのかは定かではないが、ポンソルトの前作『スマッシュド』とこの映画には興味深い接点がある。

 『スマッシュド』では、アルコール依存症から立ち直ろうとするヒロインの姿が描かれる。この映画のサッターも酒の問題を抱えている。彼は紳士服店でバイトしているが、仕事中にも自分のドリンクに密かに酒を足している。映画の終盤では、経営者から酒の問題を解決すると約束するなら、店をまかせたいと伝えられる。

 2作品から浮かび上がるこの酒の問題には、別の意味が埋め込まれている。『スマッシュド』のヒロインは、酒を飲んで自分の境遇を人のせいにする母親に育てられ、酒を飲む男と結婚し、酒を飲む仲間たちに囲まれていた。だから、断酒は、ヒロインを閉じ込めてきた世界から自分を解き放つイニシエーション(通過儀礼)になる。

 この映画のサッターが酒の問題を抱えているのは、父親の不在と無関係ではない。彼は父親に会いたいと思っているが、母親は父親のことを悪く言うばかりで、過去のことを語らず、連絡先を教えようとしない。もし、そのまま彼が成長すれば、自分の境遇を人のせいにする大人になっていただろう。

 そこでより興味深いものになるのがエイミーとの関係だ。サッターは彼女に酒の味を覚えさえ、スキットルをプレゼントし、彼女を縛る家族からの自立をうながす。素直なエイミーは、それらをすべて喜んで受け入れ、変わっていく。だからサッターも自分と向き合わなければならなくなる。彼は父親に会うことで、苦しみながら自分が何者なのかを見極めていく。この映画も『スマッシュド』と同じように、呪縛から自己を解き放つイニシエーションの物語になっているのだ。


(upload:2015/02/21)
 
 
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