スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜
Smashed


2012年/アメリカ/カラー/81分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
line
(初出:)

 

 

酒を飲むことが当たり前の世界から新たな世界へ

 

[ストーリー] 小学校の教師ケイトとチャーリーは、酒が好きで結ばれたような夫婦だ。ケイトは仕事の前にも飲んでいたが、飲酒が原因の失態を繰り返して危機感を抱き、同僚デイヴの勧めもあって断酒会に入ることを決意する。そして、断酒会で立ち直ったデイヴや断酒会の世話役ジェニーに励まされ、生活をあらためていく。だが、なりゆきでついた嘘が、彼女を追いつめてしまうことになる。

 『スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜』(12)は、78年生まれの新鋭ジェームズ・ポンソルトの長編第2作だ。アルコール依存症から立ち直ろうとするヒロインを描いた物語というと暗い作品を想像するかもしれないが、この映画は依存症の現実に肉薄し、生々しく描き出そうとするわけではない。

 ポンソルト監督はストーリーに頼らず、等身大のヒロインに寄り添い、ケイトの日常と心の揺れを描き出していく。店で飲んでいたケイトは、酔った女性の頼みを断れずに彼女を車で送るが、車中で勧められるままにクスリをやってしまう。そして騒いだあげく、翌朝、人気のない場所で目覚める。夜中に酒を切らし、自転車で店に買いに行くが、彼女の様子を見た知り合いの店主は、売ろうとしない。彼女は堪えきれずに店に放尿にしたうえ、酒を盗んでしまう。そして翌朝、知らない場所で目覚める。そんな場面では、記憶が曖昧で、自己嫌悪に陥る気持ちが伝わってくる。

 さらに、脚本にもひねりが効いている。ケイトは授業中に気分が悪くなり、吐いてしまうが、生徒から妊娠したのかと尋ねられて、なりゆきで肯定してしまう。ところがその話は、生徒から父兄や教師へと伝わり、女性校長が妊娠を祝うサプライズ・パーティまで開いてしまう。ケイトは戸惑っているうちに、依存症とは違う泥沼にもはまっていく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ジェームズ・ポンソルト
James Ponsoldt
脚本 スーザン・バーク
Susan Burke
撮影 トバイアス・デイタム
Tobias Datum
編集 スザンヌ・スパングラー
Suzanne Spangler
音楽 アンディ・キャビック、エリック・D・ジョンソン
Andy Cabic, Eric D. Johnson
 
◆キャスト◆
 
ケイト   メアリー・エリザベス・ウィンステッド
Mary Elizabeth Winsted
チャーリー アーロン・ポール
Aaron Paul
デイヴ ニック・オファーマン
Nick Offerman
バーンズ校長 ミーガン・ムラリー
Megan Mullally
ジェニー オクタヴィア・スペンサー
Octavia Spencer
ロシェル メアリー・ケイ・プレイス
Mary Kay Place
オーウェン カイル・ガルナー
Kyle Gallner
フリーダ ブリー・ターナー
Bree Turner
-
(配給:)
 

 「妊娠」というキーワードは、まったく異なるシチュエーションでも生かされている。それは、ケイトがチャーリーとともに実家の母親を訪ねる場面だ。ケイトが母親に酒をやめることを伝えると、彼女は即座に妊娠だと考える。母親にとっては、妊娠以外に酒を断つことなど考えられない。実際、彼女はケイトと話をする以前に、すでに彼らにブラディマリーを振る舞っている。

 この場面から、この映画が単に断酒や生活改善だけではなく、イニシエーション(通過儀礼)を描いていることがわかる。ケイトは、酒を飲む母親に育てられ、酒を飲むチャーリーと結婚し、酒を飲む仲間たちに囲まれていた。彼女にとって世界とはそういうものだった。しかし、断酒によって新たな世界が開ける。終盤の大胆な時間の省略と、チャーリーの世界との対置は、ケイトの世界の変化を鮮やかに浮き彫りにしている。


(upload:2015/02/20)
 
 
《関連リンク》
ライリー・スターンズ 『フォールツ(原題)』 レビュー ■
クリス・メッシーナ 『アレックス・オブ・ヴェニス(原題)』 レビュー ■
ジェームズ・ポンソルト 『エンド・オブ・ザ・ツアー(原題)』 レビュー ■
ジェームズ・ポンソルト 『スペクタキュラー・ナウ(原題)』 レビュー ■
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ・インタビュー02 『ロゼッタ』 ■
ケン・ローチ 『マイ・ネーム・イズ・ジョー』 レビュー ■
マティ・リッチ 『ストレート・アウト・オブ・ブルックリン』 レビュー ■

 
 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp