『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99)、『アバウト・シュミット』(02)、『サイドウェイ』(04)、そして7年ぶりの新作となる『ファミリー・ツリー』。アレクサンダー・ペイン監督の作品には共通点がある。人生の危機に直面した主人公の行動や心理がユーモアを交えて描き出される。
そういう設定やスタイルで映画を撮る監督は他にもいるが、ペインは一線を画している。実はこの四作品にはすべて原作となった小説があるが、他の監督が映画化しても、彼のような世界が切り拓けるわけではない。
あまり目立たないが、ペインの作品には別の共通点がある。まず『ハイスクール白書』を振り返ってみよう。ネブラスカ州オマハを舞台にしたこの映画では、表彰もされた信頼が厚い教師が、上昇志向のかたまりのような女子生徒の生き方に抵抗を覚えたことがきっかけで人生の歯車が狂い出し、仕事も家庭もすべてを失ってしまう。
最後に逃げるようにニューヨークに向かった彼は、自然史博物館の教育部門に就職し、新たな人生を歩み出す。筆者が注目したいのは、その自然史博物館に展示された原始人のジオラマだ。さり気なく映像が挿入されるだけなので記憶している人は少ないだろう。
しかし、『アバウト・シュミット』を振り返ってみると、そのことが気になってくるはずだ。同じくオマハを舞台にしたこの映画では、定年退職し、妻に先立たれた孤独な主人公が、一人娘とどうしようもない男の結婚を阻止するためにデンバーに向かう。
結局なにもできなかった彼は、帰りに開拓者たちを記念して建てられたアーチに立ち寄る。その内部は博物館になっていて、開拓者たちのジオラマを通して歴史を目の当たりにした彼は、自分がいかに小さな存在であるのかを悟る。
どちらの作品でも、人生の危機に直面し、自分や家族という身の周りのことだけで頭がいっぱいになっている主人公の姿は滑稽に見える。だが、ペインはユーモアだけで終わらせない。連綿とつづく生の営みという大きな視点から彼らを見つめてもいるのだ。
では、『サイドウェイ』の場合はどうか。ワイナリー自体がすでに歴史のジオラマのようなものだが、ワイン通である冴えない中年男である主人公が、ピノ・ノワールという品種に極端なほどのこだわりを持っていることに注目してもらいたい。
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