[ストーリー] 20代の若者シャオジャンは、母親が細々と営む仕立て屋で働いている。父親はエナメル工場で働いていたが、病気で寝込んでいる。しかもその後、病気が悪化して入院することになり、一家の家計は苦しくなる。
シャオジャンは、制服のアイロンがけを頼んだ警官が受け取りに来ないので、仕方なく配達する。警官は事故に遭って不在だった。その帰りに制服を着てみた彼は、他人が自分を見る目が変わるのに気づき、金儲けを思いつく。道路わきに立って違反車両を止め、賄賂を取るのだ。と同時に、ビデオショップの店員シャシャに声をかけ、彼女と出歩くようになる。だがやがて、彼女もまた別の顔を持っていることが明らかになる――。
[レビュー] 中国の新鋭ディアオ・イーナン監督のデビュー作『制服』でまず印象に残るのは、無駄のない簡潔な表現だ。シャオジャンは孤独を生きている。売店に寄ってそこで働く女性の名前を尋ねると、『タクシードライバー』のトラヴィスのように冷たくあしらわれる。人が寄ってくるのは、スロットマシンで勝ったときぐらいで、店を出た途端にカツアゲにあう。そんな彼は、警官に制服を届けようとした帰りに雨に降られ、地下道に駆け込み、濡れたシャツを脱ぎ、制服を着てみる。すると後から駆け込んできた若い女が、彼に近づいてきて煙草の火を借りようとする。シャオジャンが前のシャツ姿だったら、おそらく彼女は離れて雨宿りするだけで、煙草を吸うのは諦めていただろう。
この監督は、断片的なエピソードを繋ぐだけで、シャオジャンの内面の変化を巧みに描き出している。
私たちは、シャオジャンのなりすましがいつまでも続くはずがないと思う。実際、彼は最後に、声をかけてきた警官に偽者であることが露見し、逃げ回ることになる。だが、イーナン監督はそれ以前に、自分の立場を選択することの重さを主人公に痛感させるエピソードを盛り込んでいる。
そのきっかけは、父親が働いていたエナメル工場が縫製工場に変わったことだ。新しい工場で働く者は再登録の手続きを行わなければならない。シャオジャンは、病気の父親に代わって手続きに行くが、なぜか父親の名前が名簿になかった。そのとき、解雇されて不満を爆発させた労働者たちが事務所に殴りこんでくる。シャオジャンは新工場の事務員と勘違いされてトラブルに巻き込まれ、取り締まりにあたる警察に顔を知られることになる。
そんな出来事があったため、後に彼は警察に呼び出され、ストライキの首謀者を割り出すために協力させられる。それは、警官になりすます行為を行なっている彼にとっては、皮肉な状況といえる。
しかも、イーナン監督はその結果を、象徴的な表現で強調してもいる。父親は背中にできものができ、母親は日光浴をさせたいと思うが、彼を動かすことができない。そこで、巨大な鏡を用意して、向かいの家の屋根にそれを立て、太陽光を反射させて部屋に取り込むことにする。深読みすれば、巨大な鏡は別の顔を持つシャオジャンを象徴していると考えることができるが、そんな鏡は彼が警察に協力したことを根に持つ人間に割られてしまう。 |