マイケル・ウィンターボトム監督の『CODE46』の舞台は、環境破壊が進み、地球の全域が砂漠化しつつある近未来だ。世界は、安全が保証された都市部と砂漠が広がる無法地帯に分断されている。人々は徹底した管理下に置かれ、“バベル”という滞在許可証を付与された者だけが、都市部の間を移動することができる。
ウィンターボトムの作品には、できるだけ物語に頼らず、状況を通して人間を描きだそうとする姿勢がある。それをどこまでも突き詰めていくためには、常に異なるジャンルに挑戦し、多様な映像表現を駆使していく必要がある。『CODE46』はそんなことを再認識させる作品だ。
禁断の愛を描くこのSF映画が異様な緊迫感を生みだすのは、その近未来世界の本質がまさしく現代であるからだ。ウィンターボトムは、現代の上海やドバイにロケし、単にそのイメージを利用するだけでなく、現実も取り込んでいる。
安全な都市部と砂漠化した無法地帯に二分された世界は、『イン・ディス・ワールド』の難民キャンプとロンドンでもあり、安全のために自由が制約されるのも致し方ないと思っているうちに、安全こそが自由なのだと錯覚するようになった社会でもある。
ウィンターボトムが見つめるのは、常に孤立した人間だが、その視点は確実に変化している。初期の作品で浮き彫りになるのは、世界から見離された人間の存在そのものだが、『アイ ウォント ユー』、『いつまでも二人で』、『めぐり逢う大地』などが物語るように、次第に記憶が鍵を握るようになる。孤立した人間は、自分の記憶に出口を求めるのだ。 |