かつて『戦争のはじめかた』で米軍を痛烈に風刺したオーストラリア出身のグレゴール・ジョーダン監督が、またアメリカ人が目を背けたくなるような作品を作り上げた。テロとの戦いや安全保障に関わるこの新作『4デイズ』がアメリカであまり話題にならなかったのは、痛いところを鋭く突いていたからだろう。
この映画を観て筆者が最初に思い出したのは、エドワード・ズウィック監督と、後に『倒壊する巨塔:アルカイダと「9・11」への道』(06)でピュリツァー賞を受賞するローレンス・ライトが作った『マーシャル・ロー』(98)のことだ。
この映画には、ニューヨークにおける爆破テロ、アラブ系市民の一斉検挙、容疑者に対する拷問、非常事態における軍の活動、FBIとCIAの軋轢など、9・11によって現実となる問題が描き出されていた。『4デイズ』は、そのなかのひとつ、容疑者への拷問がどこまで許されるのかを徹底的に突き詰めた作品といえる。
映画は、改宗してムスリムになったアメリカ市民の男ヤンガーが、ビデオカメラに向かってメッセージを録画するところから始まる。彼は、国内の3都市に核爆弾を仕掛け、要求が受け入れられない場合には4日後に爆発すると予告する(その要求が明らかになるのは終盤なのでここでは書かないが、最近のエジプト情勢なども思い出させる)。しかしこの映画では必死の捜査が描かれるわけではない。
ヤンガーはすでに軍によって拘束されている。極秘施設に軍の要人やFBIのテロ対策チームが召集され、当局に保護されている謎のエキスパート「H」と彼に指名されたFBIの女性捜査官ヘレンによって尋問が開始される。Hはいきなり男の小指を切断し、ヘレンは残虐な拷問に激しく反発する。だが進んで拘束された男は、すでに罠を張り巡らせ、ショッピングモールで起こった爆発によって53人の死者が出る。
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