ジャン=ピエール・ジュネの新作『アメリ』は、背景となる世界がこれまでの作品とずいぶん違うことにまず驚かされる。マルク・キャロとのコンビで作り上げた『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』の背景は、ダークでグロテスク、そしてレトロな近未来世界だった。『エイリアン4』はシリーズなのでレトロな要素は影をひそめていたが、他は共通している。
ところが『アメリ』の舞台はパリのモンマルトル、しかもダイアナ妃の事故死のニュースが盛り込まれているように、現代という時代を扱っている。そのディテールや色調には確かにレトロな雰囲気が色濃く漂い、どこかノスタルジーをかき立てる不思議な時間が流れているが、これまでの世界とは明らかに違う。ドラマも妙にほのぼのとしている。
しかし、よくよく見ればこれは紛れもなくジュネの世界だ。彼の世界の核にあるのは、この世に存在していることの孤独だ。孤独であることをこれほど想像力豊かに描ける作家はそうはいない。
たとえば、『ロスト・チルドレン』には実にユニークなキャラクターがたくさん登場するにもかかわらず、家族というものが見当たらない。海底に暮らす天才学者は、孤独ゆえに欠陥を持ったクローンを創造してしまい、クローンは、夢やオリジナルなど自分たちに欠けているものに苛まれ、孤独を生きる。孤独ゆえに現実から目をそむけようとする人々は、邪教の一員となることによって、孤独よりも隷属を選ぶ。孤独なストリート・キッズは、孤児院で仲間を得るが、盗みを強要され、非情な大人の世界に組み込まれる。
『エイリアン4』のリプリーは、エイリアンとのハイブリッドな存在となることで、単に人間として孤立するのとは違う深い孤独を背負う。それはこの映画のなかで、彼女と力を合わせる精巧なロボットが背負う孤独にも通じている。
『アメリ』のドラマの核にあるのも孤独だが、ジュネはこれまでとは違う視点でそれをとらえている。『ロスト・チルドレン』に登場するクローン人間は、夢を見ることができないために老化が進むという苦悩を背負っていたが、『アメリ』はこの夢が見られないということをより身近な視点で描く作品ともいえる。
この映画では、新しく人物が登場してくるたびに、その人物が好きなものや好きなことが紹介される。好きなことをやるのは間違いなく楽しいが、人間はいろいろ辛いことがあると、好きなことに逃避して気づかぬうちに孤立してしまい、ただ孤独を癒すために同じことを繰り返すようになる。そんなふうに閉じた世界の住人となってしまうことが、夢が見られなくなってしまうことなのだ。
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