■■ハンディキャップを抱える人物が大きな力に対抗していく■■
10年前にスペインの新鋭監督ハビエル・フェセルにインタビューしたとき、彼はジャン=ピエール・ジュネの『デリカテッセン』の魅力をこのように語っていた。
「たぶん15回は観ているし、多くのことを学びました。その世界を形作っている道具や衣装、色などは、実はすべて私たちの手の届くところにあるものばかりなのに、それらがみな少しずつズレていることが素晴らしい効果を生み出す」
ジュネにとって5年ぶりの新作となる『ミックマック』でもそんな独自の感性が際立っている。彼は、ユニークなキャラクターや造形、三輪トラック、サーカスの大砲、ねじ巻き式目覚まし時計などの道具によって、もうひとつのパリを作り上げてみせる。
「私は、たとえばナショナル・ジオグラフィックの世界のようなドキュメンタリーはすごく好きなんですが、監督としては、あるものをそのままリアルに描くことに興味がありません。自分のヴィジョンを通して見たときにどう映り、どう描くかが重要だと思います。フェリーニやティム・バートン、クストリッツァ、キューブリックなどが、彼らのヴィジョンを通して描いたときにアートになるということです。私自身はすべて直感的に判断しているので、自分で分析することは難しいですが、実際にあるものからいかにズレを生み出すかによって、オリジナリティが生まれ、面白さが増すのではないかと思います」
『ミックマック』では、頭に流れ弾が残ったまま生きる主人公バジルが、父親の命を奪い、彼の頭を傷つけた武器を製造する兵器会社に大胆なイタズラを仕掛けていく。
「弱い者が強い怪物に立ち向かっていくという構造ですね。私の以前の作品にもよく取り入れられています。自分では『アメリ』にもそういう構造があると思います。とても内気で人前でなにもできない女の子が、そのハンディキャップを乗り越えて良好な対人関係を作り上げていく。そういう意味では『アメリ』でさえ共通するテーマを扱っていることになります。この新作の場合は、それぞれに社会的なハンディキャップを抱え、身寄りのない人物たちが集まってきて、大きな力に対抗していく。だからコミカルではあっても、心を動かすものがあるのだと思います」
■■ヴィジュアルがまず大事、言葉遊びを楽しむ台詞も大切■■
『デリカテッセン』の道化師ルイゾンや『ロスト・チルドレン』の怪力男ワン、そして『ミックマック』に登場する軟体女や人間大砲の記録保持者。ジュネが生み出すキャラクターは、道化師や曲芸師のようなオーラを放ち、身体の表現が印象に残る。
「私にとって大事なのはまずヴィジュアルです。そういう意味でもいまおっしゃったように、道化師とか曲芸師など身体で表現することは、とても重要な要素になっています。その一方で私は、台詞というのも大切だと思っています。なぜフランス語の作品を作るのかといえば、言葉遊びを十分に楽しめるからです。この映画にもレミントンという黒人のキャラクターが登場します。彼はいまではまったく使われていないような昔の言葉や表現を使って会話をします。外国で公開されるときにそれがどのように翻訳されているのかちょっと心配ではあるのですが、言葉の遊びというのも私にとってはとても重要です。身体、言葉、その他にも衣装であるとか美術だとか音楽、そして様々なディテール、映画に必要なものをすべて使い果たすということが重要なのだと思います」
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