1967年生まれのフランソワ・オゾン監督は、これまでのフランス映画にない独特の感性で注目される新鋭だ。今回は長編第一作の『ホームドラマ』に加えて二本の短篇と中編『海をみる』が公開されるが、そこには一貫したスタンスがある。
それは、無意識のうちに生活環境によって自己を規定されている人々の日常に何らかの異物を送り込み、撹乱し、彼らを宙吊り状態に追いやることで、その本性をあぶりだすことだといえる。
「ぼくの映画の根底にあるのは自分探しなんだ。『ホームドラマ』の母親は社会から与えられたブルジョワ家庭の主婦の役を演じてきたわけだけど、人生で初めて本当の自分を探すことを余儀なくされる。ぼくが最も興味があるのは人が変わっていく過程であり、観客もそれを見て何かが変わってほしいと思う」
『ホームドラマ』の原題は“Sitcom”であり、アメリカでいえば「奥様は魔女」や「ゆかいなブレイディ家」のようなシットコムのシュールなパロディになっている。主人公はもちろん清潔な郊外住宅地に暮らす理想的な四人家族だが、父親が籠に入ったネズミを持ち帰ったことから混乱が始まる。ブニュエル、ウォーターズなどを連想させるハイブリッドなスタイルがシットコムの世界を揺さぶり、一家は性の奴隷と化し、SM、同性愛や近親相姦などが繰り広げられていく。
「ぼくはあまりにも小奇麗な家などを見るとわざと汚してやりたくなる。日本はどうかわからないけど、フランスでは衛生的であることに強迫観念がある。いくら清潔にしたってバイ菌なんて至る所にはびこっているのに。ぼく自身にも潔癖症みたいなところがあるけど、逆に自分が一番嫌いなものとか汚いものに近づいてみたい欲望に駆られる。ネズミは本当に大嫌いなんだ(笑)」 |