この映画では、選曲が興味深いだけではなく、まるでクラブのDJのように音楽によって映画のリズムや流れが生み出されていることにも注目する必要がある。
「僕は脚本を書く時にいつも音楽を聴いていて、人物や場面を想像して音楽を選んでいく。今回は異なる草稿を20本か25本くらい用意した。草稿にはそれぞれに1枚か2枚のCDがついている。それで音楽だけを聴きながら、映画の場面やリズムを感じとり、変更や調整をしていくと、音楽だけでなく映画の流れもよくなる。その作業がとても楽しいんだ。それからミキシングの段階でも映像を見ずに音だけを聴いてさらに調整する。以前はよくDJをやっていたけど、うまいDJというのは、いつ曲が変わったのかわからない。今回はそういうことをやっている。映画でそれをやる巨匠といえばマーティン・スコセッシだ。『グッドフェローズ』(90)や『カジノ』(95)は三回くらい観ないと曲がいつ移行したのかわからない。だからスコセッシをかなり研究したんだ」
■■今後の企画、三部作の最終章、そしてギュネイの人生と死■■
アキン監督の今後の企画には、『愛より強く』の“愛”、『そして、私たちは愛に帰る』の“死”に続いて“悪”を扱う三部作の第三弾や、20世紀初頭にヨーロッパからアメリカに渡った移民の物語、アキンのキャリアに大きな影響を及ぼしたクルド人監督・故ユルマズ・ギュネイを題材にした作品がある。
「僕がウエスタン≠ニ呼んでいるのがその移民の物語で、今回ジノスを演じたアダム・ボウスドウコス主演で撮ろうと思っていた。彼とアメリカに行ってリサーチまでしたけど、二千万ドルくらいかかることがわかった。ニューメキシコのモーテルで彼に謝ったよ、君の知名度では予算を調達できないって。二人ともすごく悲しくなったけど、気を取り直してハンブルクに戻り、『ソウル・キッチン』を撮ることにしたんだ。ちなみにこの企画が三部作の“悪”にあたる作品で、次回作としていま脚本を執筆しているところだ。
ギュネイの人生と死を題材にした作品については、彼の娘がパリに住んでいて、一緒に脚本を書いている。ギュネイは刑務所のなかから指示を出して作品を監督するなど、波乱に満ちた生涯を送った人だけど、彼女の目から見た父親像というのがそれ以上に面白いんだ。ギュネイは47歳でガンで亡くなった。そんな彼を僕が本当に理解するためには、もう少し年齢を重ね、経験を積む必要があると思うようになり、三部作の後で考えることにした。いずれその時がきたら撮るつもりだ」 |