ファティ・アキン・インタビュー
Interview with Fatih Akin


2010年11月20日 銀座
ソウル・キッチン/Soul Kitchen――2009年/ドイツ=フランス=イタリア/カラー/99分/ヴィスタ/ドルビーSRD
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■■音楽によって映画のリズムが生み出される■■

 アキン監督の作品では、常に音楽が重要な意味を持っている。それは、音楽と個人や社会の状況が密接に結びついているからだ。

「移民のようなバックグラウンドがあると、アフリカ系アメリカ人の社会や音楽に容易く共感できる。僕は十代の頃にヒップホップに傾倒し、そのムーヴメントに強い影響を受けた。そこまで共感できたのは、体制に対するマイノリティの音楽だったからだ。ドイツのなかのトルコ系移民というバックグラウンドを持つ僕は、世界中のマイノリティとすぐに共鳴できる。たとえば、メキシコのチアパスや中国のチベット、トルコのクルド人などに関するニュースを読むと、なによりもまず共感が湧き上がってくるんだ」

 『ソウル・キッチン』の音楽はソウルを中心に構成されている。アキン監督は、その音楽と登場人物の繋がりをどのように意識していたのだろうか。

「ヒップホップを分析するとそのルーツにはソウルがある。ヒップホップでは、カーティス・メイフィールドやジェイムズ・ブラウン、アレサ・フランクリン、スティーヴィー・ワンダーなどの70年代の曲がサンプリングされている。ソウルは、マイノリティの苦しみの音楽であり、アイデンティティや誇りが歌声や歌詞に表われている。ソウルを分析するとそのルーツはブルースであり、ブルースも綿花畑で働く奴隷のなかから生まれた苦しみの音楽だった。そういう苦しみの文化は地中海でも見られる。クルドの音楽やこの映画で使ったギリシャのレベティカだ。昔のアナトリアの貧民層から生まれた音楽がレベティカで、ブルースやR&Bとリンクしている。僕は登場人物たちのバックグラウンドを考えて音楽を決めていった。僕が好きだからではなく、彼らの音楽がソウルだったんだ」

 


―ソウル・キッチン―
 
◆スタッフ◆
 
監督/脚本/プロデューサー   ファティ・アキン
Fatih Akin
脚本 アダム・ボウスドウコス
Adam Bousdoukos
撮影 ライナー・クラウスマン
Rainer Klausmann
編集 アンドリュー・バード
Andrew Bird
 
◆キャスト◆
 
ジノス・カザンザキス   アダム・ボウスドウコス
Adam Bousdoukos
イリアス・カザンザキス モーリッツ・ブライブトロイ
Moritz Bleibtreu
シェイン・ワイズ ビロル・ユーネル
Birol Unel
ルチア・ファウスト アンナ・ベデルケ
Anna Bederke
ナディーン・クルーガー フェリーネ・ロッガン
Pheline Roggan
ルッツ ルーカス・グレゴロヴィッチ
Lucas Gregorowicz
アンナ・モントシュタイン ドルカ・グリルシュ
Dorka Gryllus
トーマス・ノイマン ヴォータン・ヴィルケ・メーリング
Wotan Wilke Mohring
ソクラテス デミール・ゲクゲル
Demir Gokgol
ナディーンの祖母 モニカ・ブライブロイ
Monica Bleibtreu
ヤギ マルク・ホーゼマン
Marc Hosemann
ミリー セム・アキン
Cem Akin
投資家 ウド・キア
Udo Kier
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(配給:ビターズ・エンド)

 この映画では、選曲が興味深いだけではなく、まるでクラブのDJのように音楽によって映画のリズムや流れが生み出されていることにも注目する必要がある。

「僕は脚本を書く時にいつも音楽を聴いていて、人物や場面を想像して音楽を選んでいく。今回は異なる草稿を20本か25本くらい用意した。草稿にはそれぞれに1枚か2枚のCDがついている。それで音楽だけを聴きながら、映画の場面やリズムを感じとり、変更や調整をしていくと、音楽だけでなく映画の流れもよくなる。その作業がとても楽しいんだ。それからミキシングの段階でも映像を見ずに音だけを聴いてさらに調整する。以前はよくDJをやっていたけど、うまいDJというのは、いつ曲が変わったのかわからない。今回はそういうことをやっている。映画でそれをやる巨匠といえばマーティン・スコセッシだ。『グッドフェローズ』(90)や『カジノ』(95)は三回くらい観ないと曲がいつ移行したのかわからない。だからスコセッシをかなり研究したんだ」

■■今後の企画、三部作の最終章、そしてギュネイの人生と死■■

 アキン監督の今後の企画には、『愛より強く』の“愛”、『そして、私たちは愛に帰る』の“死”に続いて“悪”を扱う三部作の第三弾や、20世紀初頭にヨーロッパからアメリカに渡った移民の物語、アキンのキャリアに大きな影響を及ぼしたクルド人監督・故ユルマズ・ギュネイを題材にした作品がある。

「僕がウエスタン≠ニ呼んでいるのがその移民の物語で、今回ジノスを演じたアダム・ボウスドウコス主演で撮ろうと思っていた。彼とアメリカに行ってリサーチまでしたけど、二千万ドルくらいかかることがわかった。ニューメキシコのモーテルで彼に謝ったよ、君の知名度では予算を調達できないって。二人ともすごく悲しくなったけど、気を取り直してハンブルクに戻り、『ソウル・キッチン』を撮ることにしたんだ。ちなみにこの企画が三部作の“悪”にあたる作品で、次回作としていま脚本を執筆しているところだ。
 ギュネイの人生と死を題材にした作品については、彼の娘がパリに住んでいて、一緒に脚本を書いている。ギュネイは刑務所のなかから指示を出して作品を監督するなど、波乱に満ちた生涯を送った人だけど、彼女の目から見た父親像というのがそれ以上に面白いんだ。ギュネイは47歳でガンで亡くなった。そんな彼を僕が本当に理解するためには、もう少し年齢を重ね、経験を積む必要があると思うようになり、三部作の後で考えることにした。いずれその時がきたら撮るつもりだ」

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(upload:2011/03/05)
 
 
《関連リンク》
ファティ・アキン 『ザ・カット(原題)/The Cut』 レビュー ■
ファティ・アキン 『愛より強く』 レビュー ■
ファティ・アキン 『クロッシング・ザ・ブリッジ』 レビュー ■
ファティ・アキン 『ソウル・キッチン』 レビュー ■

 
 
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