20センチュリー・ウーマン
20th Century Women


2016年/アメリカ/英語/カラー/119分
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(初出:)

 

 

1979年夏、カリフォルニア州サンタバーバラ
ミルズ監督と彼の母親の関係にインスパイアされた物語

 

[Introduction] 『サムサッカー』(05)、『人生はビギナーズ』(10)で、身近な世界、悩める人々をユーモアを交えた優しい眼差しで描き出してきたマイク・ミルズ。前作『人生はビギナーズ』では、75歳でゲイであることをカミングアウトした父親とミルズ自身の関係が題材になっていた。新作の『20センチュリー・ウーマン』では、ミルズが生まれ育ったサンタバーバラを舞台に、彼の母親と自身の関係を題材にしたドラマが描かれる。

 15歳の息子ジェイミーの行動が理解できず、息子に年齢が近い女性たちに助けを求める55歳の母親ドロシアを演じるのは、『アメリカン・ビューティー』『キッズ・オールライト』アネット・ベニング。彼女に協力するジェイミーの幼なじみジェリーを、『ジンジャーの朝 〜さよならわたしが愛した世界』のエル・ファミング、写真家のアビーを、『フランシス・ハ』のグレタ・ガーウィックが演じている。(プレス参照)

[Story] 1979年、カリフォルニア州サンタバーバラ。55歳のシングルマザー、ドロシアは、15歳の息子ジェイミーの行動が理解できず、自分だけでは支えきれないと考え、彼女の家に間借りする24歳の写真家アビーと、ジェイミーの2つ上の幼なじみのジュリーに、彼の後見人になってほしいと頼み込む。とあるメーカーの製図室で働くドロシアは、若い頃には真剣にパイロットになりたいと思う進んだ女性だったが、さすがに息子が熱中するパンクロックにはついていけなかった。だが、後見人となったふたりもそれぞれに悩みを抱えていた。アビーは子宮頸がんをめぐる健康問題で挫折を味わい、壁を乗り越えようともがいている。奔放に見えるジュリーは、母親の再婚などで孤立し、自分の居場所を失っている。ジェイミーは彼女たちと触れ合うことで、フェミニズムに傾倒し、精神的に自立していく。

[以下、短いコメントになります]


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   マイク・ミルズ
Mike Mills
撮影 ショーン・ポーター
Sean Porter
編集 レスリー・ジョーンズ
Leslie Jones
音楽 ロジャー・ネイル
Roger Neill
 
◆キャスト◆
 
ドロシア   アネット・ベニング
Annette Bening
ジェリー エル・ファニング
Elle Fanning
アビー グレタ・ガーウィック
Greta Gerwig
ジェイミー ルーカス・ジェイド・ズマン
Lucas Jade Zumann
ウィリアム ビリー・クラダップ
Billy Crudup
-
(配給:ロングライド)
 

 マイク・ミルズ監督の『サムサッカー』(05)は、ウォルター・カーンの同名小説の映画化で、『人生はビギナーズ』(10)は、ミルズと彼の父親との関係が物語のベースになり、本作『20センチュリー・ウーマン』(16)は、ミルズと彼の母親との関係がベースになっている。その題材は異なるが、ミルズが描こうとしていることは変わっていない。筆者は『サムサッカー』のレビューを以下のようにまとめた。

「ミルズがこだわるのは、閉塞的な日常を生きる人々のリアリティであり、決してそこから安易な答を引き出そうとはしない。現代では、誰もが孤立し、依存し、逃避している。ジャスティンがそのことに気づくとき、彼は、世界を相対的に見られるサムサッカーへと成長を遂げているのだ」

 ミルズは、登場人物たちの行動が傍目にはいかに奇妙に見えても、それらを多様性として肯定し、受け入れていく。たとえば、本作で、ドロシアの家に間借りするアビーと、ドロシアの家を修繕しているウィリアムがセックスする流れになったとき、アビーには、セックスするのに人物や設定など架空の物語を必要とすることがわかる。ウィリアムはいささか戸惑いつつもその要求に従う。

 本作では、というより本作でも、登場人物がそれぞれに相手を戸惑わせるような性質を持っていたり、行動をとったりするが、その背景にはそれぞれの事情があり、ミルズはそれらを肯定的にとらえている。簡単にいえば、普通など存在しないのだ。

 ミルズが描こうとすることは本質的には変わっていない。だが、それを描くスタイルは変化している。『サムサッカー』では原作の80年代という背景を現代に変えて、強烈なユーモアや奇抜なエピソードは削り、ドキュメンタリー的な視点を持ったドラマを作り上げた。

 『人生はビギナーズ』では、ミルズの分身オリヴァーとゲイをカミングアウトした父親ハルとの関係、かつての両親の生活や自分という存在を見つめなおすオリヴァーの回想、父親を癌で亡くした喪失感に苛まれる彼と風変わりな女性アナとの出会いという三つの流れが、時間軸を自在に操ることで絶妙に絡み合っていく。

 そして本作の場合には、物語の大きな流れは維持しつつ、そこに細かな仕掛けを施している。たとえば、ドラマのなかに登場人物たちのプロフィールを挿入し、記録映像やモノローグを駆使して彼らの背景を説明する。さらに、設定は1979年でありながら、「まだみんなパンクの終焉もレーガンも知らない。子供たちを苦しめるのが、核戦争ではなく地球温暖化になることも。HIVはまだ想像の外。インターネットもまだ」とか「死ぬ前に、2000年問題に備え缶詰と水を買い置きした」というようなドロシアのモノローグが挿入されるなど、未来から1979年を振り返ったり、未来の出来事を語るような視点が盛り込まれている。

 ミルズは、作品を追うごとにスタイルを進化させつつ、身近な世界、悩める人々に多様な光をあてている。


(upload:2022/04/30)
 
 
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マイク・ミルズ 『カモン カモン』 レビュー ■
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