ドリーム ホーム 99%を操る男たち
99 Homes 99 Homes (2014) on IMDb


2014年/アメリカ/カラー/112分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』劇場用パンフレット)

 

 

アメリカン・ドリームを奪われた99%の人々
夢=家を取り戻すためには1%になるしかないのか

 

[ストーリー] フロリダ州に暮らす平凡なシングルファザー、デニス・ナッシュは、思いがけない人生最大の危機に見舞われた。未曾有の大不況のあおりを受けて住宅ローンを滞納し、裁判所から自宅の明け渡しを命じられてしまったのだ。立ち退きまでたった2分間しか猶予を与えられず、なけなしの貴重品をかき集めたデニスは、小学生の息子と母親を連れてモーテルに転がり込むはめになる。

 悲しみに暮れる間もなく、必死の思いで職探しに奔走するデニスを雇ってくれたのは、皮肉にも彼らを自宅から追い出した不動産ブローカーのカーヴァーだった。カーヴァーは住宅差し押さえビジネスで巨額の富を築いた悪辣な男だったが、デニスは大切な自宅を取り戻したい一心で、借金を抱えた庶民をさらなる苦境に追い込むその仕事に加担していく。

 やがて欲望と良心の狭間でもがくデニスの葛藤が限界に達したとき、彼に重大な決断を迫る大事件が発生するのだった――。[プレス参照]

 “アメリカン・ドリーム三部作”となる『マン・プッシュ・カート(原題)』(05)、『チョップショップ〜クイーンズの少年』(07)、『グッバイ・ソロ』(08)、そして『チェイス・ザ・ドリーム』(12)のラミン・バーラニ監督の新作です。

[以下、レビューになります]

 イラン系アメリカ人のラミン・バーラニは、日本ではまだほとんど無名に近い存在だが、アメリカのインディペンデント映画の世界では、その作品が様々な賞に輝き、高く評価されている映像作家である。彼がこれまで発表してきた作品は大きくふたつに分けられる。

 バーラニはまず、『マン・ブッシュ・カート(原題)』(05)、『チョップショップ〜クイーンズの少年』(07)、『グッバイ ソロ』(08)からなる“アメリカン・ドリーム三部作”が、次々にメジャーな国際映画祭で公開され、気鋭の作家として注目を集めるようになった。これらの作品では、社会の底辺で生きる移民の日常が、主にアマチュアや新人の俳優を起用して、リアルに描き出されていた。

 これに対して第4作の『チェイス・ザ・ドリーム』(12)では、主人公が中西部で代々農場を営む家族に変わり、キャストもデニス・クエイドやザック・エフロンといったキャリアのある俳優が起用されるようになった。そして、フロリダのサバービア(郊外住宅地)に暮らす家族を描くこの新作『ドリームホーム 99%を操る男たち』では、さらに豪華なキャストが顔を揃えている。


◆スタッフ◆
 
監督/原案/脚本/編集   ラミン・バーラニ
Ramin Bahrani
脚本 アミール・ナデリ
Amir Naderi
撮影 ボビー・ブコウスキー
Bobby Bukowski
音楽 アントニー・パートス&マッテオ・ジンガレス
Antony Partos, Matteo Zingales
 
◆キャスト◆
 
デニス・ナッシュ   アンドリュー・ガーフィールド
Andrew Garfield
リック・カーヴァー マイケル・シャノン
Michael Shannon
リン・ナッシュ ローラ・ダーン
Laura Dern
コナー・ナッシュ ノア・ロマックス
Noah Lomax
デレク アルバート・ベイツ
Albert Bates
フランク・グリーン ティム・ギニー
Tim Guinee
ミスター・タナー J・D・エヴァーモア
J.D. Evermore
ミセス・タナー アン・マホーニー
Ann Mahoney
ミスター・フリーマン クランシー・ブラウン
Clancy Brown
-
(配給:アルバトロス・フィルム)
 

 しかし、主人公の設定やキャストが変わっても、バーラニが切り拓く世界の本質は変わっていない。彼が描いているのは、突き詰めれば、夢を持ち、夢を叶えようとすることをめぐる洞察に満ちた人間ドラマだといえる。

 たとえば、『チョップショップ〜』では、自動車修理工場に住み込みで働くヒスパニックの少年が、中古のマイクロバスを購入してフード・トラックに改造し、一緒に暮らす姉とビジネスを始める夢を持つ。だが、姉が密かに売春していることに気づいた彼は、自分の感情をコントロールできなくなっていく。『グッバイ ソロ』に登場するセネガル移民のソロは、メキシコ系の妻と彼女の連れ子の娘と暮らし、タクシー運転手として働きながら、キャビンアテンダントになるための勉強を続けている。そんな彼は夢を叶えることで頭が一杯になっているが、自殺を計画している老人の運転手になり、老人が失ったものを察することで、家族との関係を見つめ直していく。

 夢を持つことは悪いことではないが、それを分かち合えなければ、家族の信頼関係が崩れていく。そんな視点は『チェイス・ザ・ドリーム』にも引き継がれている。但し、キャストに複雑な演技が要求できるようになったため、脚本がより緻密になっている。

 この映画ではふたつの夢が絡み合う。農場を営む父親は事業の拡大を目論み、息子はレーサーを目指す。その息子はやがて挫折し、父親の事業を手伝うようになる。後継者を求める父親にとってそれは望ましいことのはずだが、農場に調査が入ることになったとき、密告者の正体を誤解した息子が取り返しのつかない過ちを犯してしまう。そんなトラブルの原因は、元をたどれば父親が、他人の痛みや苦しみを顧みることもなく事業を拡大しようとしたことにある。その結果、親子は重い十字架を背負って生きていくことになる。

 では、新作『ドリームホーム〜』の場合はどうか。デニスは、家を奪った張本人であるカーバーの右腕になり、自分と同じ立場にある人々を犠牲にしてでも家を取り戻そうとする。母親や息子のコナーはもはや夢を分かち合えなくなり、家族の信頼関係は崩れていく。それはまさにバーラニが掘り下げてきた関係だが、彼が強い関心を持っているのは、規制緩和や不平等な税制を背景に、ウォール街や銀行、企業が困窮する庶民を食いものにし、格差を広げていくシステムだ。

 この映画では、3年前までは普通の不動産屋だったが、今では完全にシステムに取り込まれているカーバーと、いままさに取り込まれようとしているデニスが、映像を通して実に巧妙に対置されている。この映画の冒頭では、家の主が拳銃自殺した現場に立つカーバーの姿が長回しで映し出され、終盤では、フランク・グリーンが銃を構えて家に立てこもる。このふたつの場面は密接に結びついている。

 冒頭の場面は、カーバーの冷淡さを際立たせているだけではない。彼にもこれまでに取り返しのつかない悲劇を未然に防ぐ最初の機会というものが間違いなくあった。そこで行動を起こせば引き返すことができたはずが、一線を越えた結果、現在のような人間になったのだ。終盤の場面は、ひとつ間違えば血なまぐさい事件に発展してもおかしくない状況であり、そうなればデニスは引き返すことができなくなる。

 そこで重要になるのが、デニスとフランク・グリーンの関係だ。映画の前半でデニスが裁判所に出廷したとき、そこにフランクも居合わせ、デニスを目にしていたことがあとでわかる。そのときふたりは同じ立場にあったが、偽造文書を持って裁判所を訪れたデニスがフランクの姿を目にするとき、彼らは別の人間になっている。フランクはシステムと闘い、家を守るという夢を妻子と分かち合っている。そんな光景がデニスの心を揺さぶっていなかったら、物語の結末は違ったものになっていたかもしれない。

 バーラニはこの映画で、ただ人間関係を描くのではなく、家という夢がシステムによって浸食されていく状況を、激しくせめぎあう感情を通して見事に浮き彫りにしている。


(upload:2016/11/05)
 
 
《関連リンク》
Ramin Bahrani official site
Interview: Ramin Bahrani Talks '99 Homes | Indiewire
Interview: Ramin Bahrani on "99 Homes." | eFilmCritic
Interview: Ramin Bahrani | Slant Magazine
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