■■ドキュメンタリーの感触、危険をはらむカメラワーク■■
2008年のサンダンス映画祭でグランプリに輝き、世界各国で賞賛を浴びている『フローズン・リバー』。この作品で長編デビューを飾り、アメリカのインディペンデント映画界で大きな注目と期待を集めているのが、1964年生まれの女性監督コートニー・ハントだ。
映画の舞台はニューヨーク州最北部、先住民モホーク族の保留地に隣接し、セントレーレンス川を挟んでカナダと国境を接する小さな町。2人の子供を抱え、経済的に追い詰められた白人女性レイと疎外されたモホーク族の女性ライラが偶然に出会い、不法移民を密入国させる犯罪に手を染めていく。
この映画では、凍りついたセントローレンス川、老朽化したトレーラーハウス、レンタルテレビや凍結する水道管など、厳しい風土や人々の日常がリアルに描き出されている。
「まず、アップステイト(ニューヨーク州北部)やセントローレンス川の風景、州法が適用されない(モホーク族の)保留地や国境という境界などに惹かれたことが作品の出発点になっています。
私はドキュメンタリーのスタイルに愛着を持っていたので、ドキュメンタリーの感触を持つ作品にしたいと思いました。ストーリーは、地域に根ざした部分から発展するように心がけ、キャラクターも実際にそこに暮らしている人々からインスピレーションを得て作り上げました。レイが住んでいる青いトレーラーハウスも、実際に住んでいる人を訪ねてそこを借りたいと頼み、2週間家を空けてもらって、なにも手を加えることなくそのまま撮影しています。それから綿密なリサーチもしています。地元のウォルマートの駐車場に車を止め、買い物に来る人たちを観察したりもしました」
この映画は、新居を購入するための資金を夫に持ち逃げされ、途方に暮れるレイのクローズアップから始まる。登場人物の生身の感情を炙り出していくスタイルは、ジョン・カサヴェテスを想起させる。さらに、登場人物たちのドラマだけではなく、風景を通して独自の世界を切り開いていくところは、テレンス・マリックの作品にも通じる。
「カサヴェテスは大好きです。彼の作品やカメラワークには危険なものがあります。私は危険をはらんだカメラワークに惹かれます。影響を受けた作家はたくさんいますが、特にテレンス・マリックの『地獄の逃避行』が好きですね。危険があり、サスペンスがあり、風景やアクションに独特の感覚があります。
『フローズン・リバー』のクローズアップは、(レイを演じる)メリッサにとってはかなり厳しいものだったようです。まわりからそのことはずいぶん言われました。でも、メリッサの場合は、実際に寄るとその表情にカオスとかエッジを感じとることができるんです。また、彼女が下の息子と話すときの親密さをとらえたいという思いもありました。実は(『フローズン・リバー』のもとになった)短編を撮ったときには、男性のカメラマンだったんですが、カメラが寄り過ぎるとメリッサが引いてしまうことに気づきました。長編を撮るにあたって、そのことを考慮し、リード(・モラノ)という女性のカメラマンにお願いし、メリッサも気持ちが楽になりました」 |