それでも恋するバルセロナ
Vicky Cristina Barcelona


2008年/アメリカ=スペイン/カラー/96分/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:日本版「Esquire」2009年7月号、若干の加筆)

 

 

バルセロナがもたらす刺激とインスピレーション

 

 ウディ・アレンが『マッチポイント』(05)や『タロットカード殺人事件』(06)の舞台に選んだロンドンは、彼にマンネリを打ち破るほどの刺激やインスピレーションをもたらしはしなかった。しかし、『それでも恋するバルセロナ』のバルセロナ(やオビエド)は、アレンにロンドン以上の作用を及ぼしている。

 この恋愛映画の設定やドラマからは、様々な境界が浮かび上がってくる。ヴィッキーとクリスティーナは、アメリカからバルセロナにやってくる。彼女たちの日常とバカンスの間には境界がある。

 フアンは英語も話すが、彼の父親はスペイン語しか話せないので、ヴィッキーにはこの親子の会話がわからない。フアンの元妻のマリアは、彼がいくら英語で話せといってもスペイン語を使う。そんな言葉の壁に加えて、フアンとマリアを結ぶ芸術の世界も境界になる。

 フアンが操縦する飛行機の何とも怪しい飛び方も、バルセロナとオビエドの間に単なる距離以上の境界を意識させる。さらに、物語を簡略化しようとするナレーションと映像のギャップも境界に加えることができるだろう。

 そうした境界は、ドラマの展開とともに複雑に絡み合い、皮肉や混乱を生み出していく。ヴィッキーの婚約者のダグは、彼女のバカンスの喜びをさらに大きなものにするためにバルセロナにやって来る。だが、オビエドで熱い夜を過ごした彼女にとって、バルセロナは日常と化していく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ウディ・アレン
Woody Allen
撮影監督 ハビエル・アギーレサロベ
Javier Aguirresarobe
編集 アリサ・レプセルター
Alisa Lepselter
 
◆キャスト◆
 
クリスティーナ   スカーレット・ヨハンソン
Scarlett Johansson
マリア・エレーナ ペネロペ・クルス
Penelope Cruz
フアン・アントニオ ハビエル・バルデム
Javier Bardem
ヴィッキー レベッカ・ホール
Rebecca Hall
ジュディ・ナッシュ パトリシア・クラークソン
Patricia Clarkson
マーク・ナッシュ ケヴィン・ダン
Kevin Dunn
ダグ クリス・メッシーナ
Chris Messina
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(配給:アスミック・エース)
 

 一方、クリスティーナは、これまでフアンが絵画を通して感化されてきたように、写真を通して天才肌のマリアに感化されていく。そして自分が誰に恋しているのか、あるいは何に恋しているのかわからなくなる。

 ウディ・アレンは、『地球は女で回ってる』までは、ユニークな発想とスタイルで、現実と虚構が入り組み、せめぎ合う世界を次々に切り開いてきた。それらの作品には、明快な結末などなかった。なぜなら、簡単に答えなど出せないテーマをどこまでも掘り下げようとしてきたからだ。そういう意味では、この新作には、本当に久しぶりに、答えにたどり着けない男女の恋愛が描き出されている。



(upload:2009/11/28)
 
 
《関連リンク》
現実と虚構がせめぎあうウディ・アレンの世界 ■
『セレブリティ』 レビュー ■
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『タロットカード殺人事件』 レビュー ■
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