[ストーリー] イタリア最大の野党を率いる大物政治家エンリコが、重要な国政選挙を前にして突然の失踪を遂げた。「戦いの前に、ひとりになる時間がほしい」。そんな書き置きを発見した腹心の部下アンドレアは、支持率が低迷中の党に決定的なダメージを与えるであろうそのスキャンダルを揉み消し、「エンリコは体調不良で入院中」との嘘をつく。
窮地のアンドレアを救ったのは、エンリコの双子の兄ジョヴァンニだった。エンリコの替え玉に起用されたジョヴァンニは、アンドレアも驚くほどの機知とユーモアに富んだ言葉を駆使し、たちまちメディアや大衆を魅了していく。一方、こっそりとローマを脱出し、パリで暮らす元恋人のもとに身を寄せたエンリコは、日頃のプレッシャーから解放され、少しずつ平穏を取り戻していた。
ローマから“消えた”男と、それと入れ替わるようにしてローマに“現れた”男。やがてイタリア全土を揺るがす替え玉作戦は、思いがけない急展開を見せるのだった――。[プレスより]
ロベルト・アンドー監督のイタリア映画『ローマに消えた男』は、最大野党を率いる書記長エンリコが重要な国政選挙を前に行方を眩ますところから始まる。彼の秘書アンドレは、支持率が低迷する党に追い討ちをかけるスキャンダルを回避すべく、エンリコの双子の兄ジョヴァンニを替え玉にする賭けに出る。弟と疎遠だったジョヴァンニは、驚くことに機知に富む巧みな弁舌でメディアや大衆を魅了していく。一方その頃、エンリコはパリに住む昔の恋人ダニエルのもとに身を寄せ、心の平穏を取り戻しつつあった。
エンリコとジョヴァンニの二役をこなすのは、『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』のトニ・セルヴィッロ。そのカメレオンぶりには誰もが唸るはずだが、アンドー監督は、ストーリーやキャラクターの面白さだけで勝負しようとしているわけではない。
まず注目したいのは、映画のなかで政治と映画の世界が対置されていることだ。昔の恋人ダニエルの職業は映画のスクリプターで、彼女の夫はムングという台頭著しい映画監督であることがわかる。撮影現場にダニエルを訪ねたエンリコは、ひょんなことから小道具係として働くことになる。そしてムングがダニエルに意味深なことを言う。「政治と映画は似たり寄ったり。詐欺師もいれば天才もいる。区別がつかないときもある」。
その言葉は映画のテーマと無関係ではない。この映画では様々なレベルでふたつのものの区別が曖昧になる。まず双子をめぐる替え玉がある。エンリコとジョヴァンニは、異なる心の病でそれぞれに薬を服用しているため、普段でもそれが本来の姿なのか、薬が作用しているのか判別しがたい。ムングの言葉を解釈すれば、映画や政治は虚構の力で人を動かすため、それが優れた表現や主張なのか、巧妙な騙しの技術なのか区別がつかないときもある。 |