ロマン・ポランスキー監督の『おとなのけんか』は、フランスの劇作家ヤスミナ・レザの戯曲「God of Carnage」(日本上演タイトル「大人は、かく戦えり」)を映画化した作品だ。
舞台はニューヨークのブルックリン。物語は、ザッカリー・カウワンがイーサン・ロングストリートの顔を棒で殴るという11歳の子供同士の喧嘩の場面から始まる。その後、双方の両親が喧嘩の始末をつけるために話し合うことになり、弁護士のアランと投資ブローカーのナンシーのカウワン夫妻が、金物商を営むマイケルとライターのペネロペのロングストリート夫妻のアパートに招かれる。当初、話し合いは和やかに進むかに見えたが、次第に軋轢を生じ、本音が飛び出し、夫婦間の問題までもが露になっていく――。
マイケルを演じるジョン・C・ライリー(『めぐりあう時間たち』『少年は残酷な弓を射る』)は、アメリカ人の気のいい父親がよく似合うし、ペネロペを演じるジョディ・フォスターも、政治や社会問題に強い関心を持ち、アートに造詣が深く、ちょっと刺のあるリベラルな妻がはまっている。彼らはほとんど普段着に近いが、アランとナンシーの方はずいぶんと身なりを整えているように見える。そんなふたりを、イギリスとオーストリア出身のケイト・ウィンスレットとクリストフ・ヴァルツが演じる。そういうコントラストもあるため、夫婦間の問題が露になり、男同士のホモソーシャルな連帯が芽生えたりする展開が、より印象深いものになる。
しかしそれ以前に筆者は、ニューヨークのブルックリンを舞台にしているということだけで、ポランスキーが含みを持たせているように思え、にんまりさせられる。
ポランスキーは30年前の淫行事件があるためアメリカに入国できない。だから舞台がアメリカに設定されていてもアメリカでは撮っていない、というのは前作の『ゴーストライター』も同じだが、今回の題材はちょっと事情が違う。 |