72年生まれのルーマニア人監督トゥドー・ジュルジュ(Tudor Giurgiu)が2012年に撮ったコメディ『オブ・スネイルズ・アンド・メン(英題)/Despre oameni si melci』の時代設定は、ルーマニア革命後の1992年。映画の冒頭と最後には、マイケル・ジャクソンがデンジャラス・ワールド・ツアーでルーマニアを訪れたときの映像が挿入される。マイケルがその前に回ってきたのは、西欧と北欧の国々で、ヨーロッパのツアーの最後に東欧の国ルーマニアを訪れた。このマイケルの映像は、共産主義からグローバルな資本主義への移行を象徴しているといえる。
しかし、チャウシェスクの独裁下にあった国が簡単に資本主義に移行できるはずもない。『ウィークエンド・ウィズ・マイ・マザー(英題)/Weekend cu mama』(09)や『俺の笛を聞け』(10)、『ホーム・アローン ルーマニアの悲劇(原題)』(10)などで触れたように、多くのルーマニア人が国内で仕事にありつけないために、スペインやイタリアに出稼ぎに出なければならなくなった。
ルーマニア版『フル・モンティ』ともいわれるこの映画では、経営難にあえぐ自動車工場の経営者が、フランス人の親子の企業家に工場を売却する交渉を進める。そのフランス人の親子は、工場の規模を縮小し、エスカルゴの缶詰を製造しようと考えている。当然、このダウンサイジングによって、多くの従業員が職を失うことになる。
それを知った労働組合のリーダー、ジョルジュは、テレビで目にした精子バンクの宣伝から奇妙なアイデアを思いつく。精子は一回分が50ドルで売れる。それをみんなで積み重ねて、自分たちで工場の所有者になろうというのだ。ちなみに、買収には15万ドルが必要なので、容易なことではないが、とにかく仲間たちも本気になる。
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