めぐり逢わせのお弁当
Dabba / The Lunchbox


2013年/インド=フランス=ドイツ/英語・ヒンディー語/カラー/105分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
line
(初出:)

 

 

誤配送のお弁当と手紙で心を通わせる女と男
ふたりの距離を生かした繊細で心に響くドラマ

 

[ストーリー] インド・ムンバイでは、お昼時ともなると、ダッバーワーラー(弁当配達人)がオフィス街で慌しく弁当を配って歩く。その中のひとつ、主婦イラが夫の愛情を取り戻すために腕を振るった4段重ねのお弁当が、なぜか、早期退職を控えた男やもめのサージャンの元に届けられた。神様の悪戯か、天の啓示か。偶然の誤配送がめぐり逢わせた女と男。イラは空っぽで戻ってきたお弁当箱に歓び、サージャンは手料理の味に驚きを覚える。だが夫の反応はいつもと同じ。不審に思ったイラは、翌日のお弁当に手紙を忍ばせる――。[プレスより]

 『めぐり逢わせのお弁当』が長編デビュー作となるリテーシュ・バトラ監督のプロフィールはなかなか興味深い。79年にムンバイに生まれ、中流家庭で育った彼は、アメリカに渡って大学で経済学を学び、経営コンサルタントとして働いた後で、まずニューヨーク大学の映画学校に学び、続いてサンダンス・インスティテュートに編入する。

 そんな彼がこれまでにないインド映画を目指したことは、国際共同製作へのこだわりに表れている。この映画はインド、フランス、ドイツの合作で、中心的なスタッフもインド人ではない。『パラノーマル・アクティビティ2』(10)やドキュメンタリー『プロジェクト・ニム』(11)のマイケル・シモンズが撮影監督を、『The Aspern Papers(原題)』(10)や『Kiss of the Damned(原題)』(12)のジョン・F・ライオンズが編集を、『戦場でワルツを』『さよなら、アドルフ』『ディス/コネクト』マックス・リヒターが音楽を手がけている。

 当然、映画の中身の方も大きく異なる。これまでのインド映画であれば、主婦イラが夫のために作った弁当が、めったにない誤配送でやもめ暮らしのサージャンに届けられ、手紙のやりとりが始まったとしても、それはあくまで過程で、彼らがいかに対面し、関係を築いていくのかが見所となっていたことだろう。しかし、この映画では、手紙のやりとりこそが中心的なドラマになる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   リテーシュ・バトラ
Ritesh Batra
撮影 マイケル・シモンズ
Michael Simmonds
編集 ジョン・ライオンズ
John F. Lyons
音楽 マックス・リヒター
Max Richter
 
◆キャスト◆
 
サージャン・フェルナンデス   イルファーン・カーン
Irrfan Khan
イラ ニムラト・カウル
Nimrat Kaur
アスラム・シェイク ナワーズッディーン・シッディーキー
Nawazuddin Siddiqui
ミスター・シュロフ デンジル・スミス
Denzil Smith
デシュパンデー夫人 バーラティー・アーチュレーカル
Bharati Achrekar
イラの夫 ナクル・ヴァイド
Nakul Vaid
ヤシュヴィ ヤシュヴィ・プニート・ナーガル
Yashvi Puneet Nagar
イラの母 リレット・デュベイ
Lillete Dubey
-
(配給:ロングライド)
 

 そんなドラマは非常に緻密に構成されている。たとえば、見えないものの効果だ。夫との関係に悩むイラには、上の階に住む“おばさん”という頼もしい相談役がいて、心の支えになっている。彼女は声だけの存在で、姿は見せない。だが、手紙のやりとりを始めたイラは、夫の愛を取り戻すための相談にのってくれているおばさんに、サージャンとの関係をすんなりと打ち明けることはできない。そこには微妙な心の揺れを見ることができる。その場では、おばさんに自分の表情を見られていないことが救いになっているともいえる。

 一方、サージャンのドラマにも見えないものの効果がある。彼はイラとの手紙のやりとりのなかで亡妻のことを思い出し、彼女の目を通して夫婦生活を振り返ってみる。そして、彼の心も微妙に変化する。彼の家のベランダからは、向かいの家で食卓を囲む家族の姿が見えるが、その一家を見る目や距離感も変わってくる。

 さらに、ふたりの主人公の世界には、コントラストを意識した別の要素も埋め込まれている。早期退職して故郷に帰るサージャンは、後任の若者シェイクに仕事の引き継ぎを行なう。そして、短い付き合いのなかで、その後輩の結婚に関わりを持つことになる。一方、イラの父親は末期がんで死の床にある。つまり、そこには巧みに冠婚葬祭が盛り込まれている。リテーシュ・バトラ監督は、ふたりの主人公の距離を最大限に生かし、繊細で心に響くドラマを作り上げている。


(upload:2014/12/27)
 
 
《関連リンク》
ニーラジ・ケーワン 『マサン(原題)』 レビュー ■
スジョイ・ゴーシュ 『女神は二度微笑む』 レビュー ■
アヌラーグ・バス 『バルフィ!人生に唄えば』 レビュー ■
カウリー・シンデー 『マダム・イン・ニューヨーク』 レビュー ■
キラン・ラオ 『ムンバイ・ダイアリーズ(原題)』 レビュー ■
K・S・ラヴィクマール 『ムトゥ 踊るマハラジャ』 レビュー ■

 
 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp