ファーナス/訣別の朝
Out of the Furnace


2013年/アメリカ/カラー/116分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

『インディアン・ランナー』を想起させる兄弟の物語は
法や制度を逸脱した野生と狩りのイメージで幕を下ろす

 

[ストーリー] ペンシルベニア州ブラドック。立ち並ぶ製鉄所のなかで、ラッセル・ベイズは煮えたぎる溶鉱炉を前に働いていた。ラッセルの父親も同じ仕事をしていたが、今は年老いて身体を壊し、叔父のレッドが面倒を見ていた。この街で生まれた男たちは、みんな溶鉱炉の熱に灼かれながら働き、年老いて死んでいく。ラッセルはそんな人生を受け入れ、恋人のリナの愛に支えられた平穏な日々を送っていた。一方、製鉄所で働くことを嫌う彼の弟ロドニーは、軍に入ってイラクに4度も送られ、その心は傷つき、荒んでいた。

 そして、ラッセルが起こした自動車事故がすべてを変えていく。彼が収監されている間に、父親が亡くなり、リナも彼のもとを去った。ロドニーはストリート・ファイトにのめり込み、大金を稼ごうと危険な賭け試合に出場しようとしていた。

 長編デビュー作『クレイジーハート』(09)で注目を集めたスコット・クーパー監督の新作『ファーナス/訣別の朝』には、筆者の興味をそそる点がふたつある。

 まずこの映画は、たとえばショーン・ペンの『インディアン・ランナー』(91)やジェームズ・グレイの『リトル・オデッサ』(94)、トニー・ケイの『アメリカン・ヒストリー]』(98)、近いところではアラン・ポルスキー&ガブリエル・ポルスキーの『ランナウェイ・ブルース』(12)などに通じる魅力を放っている。つまり、特有の地域色を持った土地を舞台に、社会の現実と個人の内面を結びつけていくような兄弟の物語が描き出されるということだ。

 この映画は実際にペンシルベニア州ブラドックとその周辺で撮影され、鉄鋼業の衰退にともなって活気を失いつつあるコミュニティや豊かな自然が映し出されている。そんな土地で繰り広げられるドラマは、先に挙げた作品のなかでは特に『インディアン・ランナー』に近い。そこには堅実な警官の兄とベトナム帰りの心が荒んだ弟が登場し、兄弟の父親の死があり、ある種の狂気にとらわれた弟が犯罪に関わり、兄が重い選択を迫られる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   スコット・クーパー
Scott Cooper
脚本 ブラッド・インゲルスビー
Brad Ingelsby
製作 レオナルド・ディカプリオリドリー・スコット
Leonardo DiCaprio, Ridley Scott
撮影 マサノブ・タカヤナギ
Masanobu Takayanagi
編集 デヴィッド・ローゼンブルーム
David Rosenbloom
音楽 ディコン・ハインクリフェ
Dickon Hinchliffe
 
◆キャスト◆
 
ラッセル・ベイズ   クリスチャン・ベイル
Christian Bale
ハーラン・デグロート ウディ・ハレルソン
Woody Harrelson
ロドニー・ベイズJr. ケイシー・アフレック
Casey Affleck
ウェズリー・バーンズ フォレスト・ウィテカー
Forest Whitaker
リナ・テイラー ゾーイ・サルダナ
Zoe Saldana
ジョン・ペティ ウィレム・デフォー
Willem Dafoe
ジェラルド“レッド”ベイズ サム・シェパード
Sam Shepard
-
(配給:ポニーキャニオン)
 

 ただし、『ファーナス/訣別の朝』の人物関係や物語の構成には問題もある。重要なのは、兄弟の物語の軸がブレることなく、最終的にすべてがその絆に集約されることだが、この映画は途中で軸がブレるような印象を与える。

 映画の表現の基本になるのは、なにを描くかではなく、なにを描かないかだ。描かないことが想像の余地を広げ、ドラマに深みを生み出す。しかしこの映画の場合には、なにを描かないかがあまりにも多すぎる。それらは、描かなかったのではなく、時間などの制約で描き込めなかったのだろう。

 リナはどういう想いでラッセルと暮らし、なぜ彼と別れることを決意したのか。また、なぜ保安官のウェズリーと付き合うことにしたのか。そのウェズリーはコミュニティのなかでどのような立場にあるのか。その保安官が失踪したロドニーの捜索の先頭に立つのであれば、そうした背景も重要になる。一方、ロドニーのマネージャー的な立場にあるジョン・ペティと危険な試合を仕切るニュージャージーのヒルビリーのボス、ハーラン・デグロートの因縁や彼らの背景というのも、同じく想像に委ねられている。

 主人公の兄弟以外に、これだけの人物について想像の余地が残されると、さすがに兄弟の物語としての軸がブレざるをえない。

 筆者が興味をそそられたもうひとつの点は、映画に盛り込まれた“狩猟”のエピソードだが、これも『インディアン・ランナー』と無関係ではない。

 ショーン・ペンの監督作の鍵になるのは、狩猟のイメージだ。『インディアン・ランナー』の冒頭では、鹿を狩るインディアンと犯罪者を追跡する警官が対置される。『プレッジ』では、殺人犯を追い続ける元刑事が、餌がなければ見えない魚を捕らえることはできないという考えにとらわれ、愛する者を危険に晒し、運命の悪戯に翻弄されていく。正義感や信念が歪み、感情や衝動が勝るとき、追う者は、社会的な制度を逸脱して、自然の摂理だけに従う狩人に変わる。

 『ファーナス/訣別の朝』では、ラッセルが叔父と行う鹿狩りが、ロドニーが挑む危険な賭け試合と対置されると同時に、クライマックスの伏線にもなる。ラッセルは最後にハーラン・デグロートという獲物をおびき出し、狩ろうとするのだ。


(upload:2014/09/19)
 
 
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