バニシング:未解決事件
Vanishing


2021年/フランス=韓国/韓国語・フランス語・英語/カラー/88分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

臓器をめぐる闇に迫る韓国人の刑事とフランス人の女性法医学者
『譜めくりの女』のデルクール監督が韓国で撮ったサスペンス・スリラー

 

[Introduction] 「賢い医師生活」『ニューイヤーズ・ブルース』『スティール・レイン』など話題作への出演が続く、韓国で最も旬な俳優ユ・ヨンソクと、『007/慰めの報酬』、『オブリビオン』他、世界で活躍するオルガ・キュリレンコの共演作。ユ・ヨンソクは 3か国語を操るソウル警察のエリート刑事パク・ジノを、オルガ・キュリレンコは法医学界に目覚ましい貢献をもたらす教授として来韓したが、ある過去に向き合うことになる法医学者アリス・ロネを演じる。ピーター・メイのスリラー・シリーズの1冊、『The Killing Room』の映画化。監督は『譜めくりの女』でセザール賞出品歴のあるドゥニ・デルクール。事件の真実が明るみになるにつれ濃い影を落とす巨大犯罪組織の存在と、吹き荒れる人物間の葛藤が緊張感を持って描かれる、片時も目が離せない息を呑むアクション・サスペンスが誕生した。(プレス参照)

[Story] ソウルで発生したある怪死事件。身元不明の遺体は指紋が奪われ、体中傷だらけの状態で発見された。ソウル警察の刑事ジノは事件解決の手がかりを探るにあたり、シンポジウムのため来韓していた法医学者のアリスに協力を要請する。 遺体の身元が容易に特定できず、臓器が違法な手術によって抜き取られていたことを知った 2人は、背後に蠢く組織を追い詰めるべく捜査に挑むが…。

[以下、短いコメントになります]

 原作は、ピーター・メイのスリラー・シリーズの1冊、『The Killing Room』。それがどのように脚色されているのか気になって、ちょっと調べてみた。原作のシリーズの舞台は中国で、中国人の刑事が活躍する。上海で、生きている間に臓器を抜き取られたあと、切り刻まれて埋められた女性たちの遺体が発見され、刑事が捜査にあたる。その捜査に協力するのが、アメリカ人の女性病理学者。彼女はそれ以前にシリーズにも登場していて、再びアメリカから呼びよせられる。刑事と病理学者には恋愛関係もあるらしい。

 ということで本作では、舞台が中国から韓国に変更され、シンポジウムのために来韓していたフランス人の女性法医学者が事件の捜査に協力することになる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ドゥニ・デルクール
Denis Dercourt
脚本 マリオン・ドゥソ
Marion Doussot
原作 ピーター・メイ
Peter May
撮影 アクセル・コスネフロワ
Axel Cosnefroy
編集 バランタン・フェロン
Valentin Feron
音楽 ジェローム・ルモニエ
Jerome Lemonnier
 
◆キャスト◆
 
パク・ジノ   ユ・ヨンソク
Yoo Yeon-Seok
アリス・ロネ オルガ・キュリレンコ
Olga Kurylenko
イ・ミスク イェ・ジウォン
Ye Ji-won
運び屋 チェ・ムソン
Choi Moo-Seong
ユナ パク・ソイ
So-yi Park
イ医師(ミスクの夫) イ・スンジョン
Seung-Jun Lee
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(配給:ファインフィルムズ)
 

 監督のドゥニ・デルクールは、以前公開された『譜めくりの女』(06)の上映時間が85分で、近作の『Zum Geburtstag』(13)も85分、『En équilibre』(15)が87分、本作が88分と、しっかりしたポリシーがあるらしく、好感がもてる。プレスのインタビューによれば、スリラーの本作を手がけるにあたって、ポン・ジュノの『殺人の追憶』(03)やナ・ホンジンの『チェイサー』(08)を参考にしたという。

 物語は、チェ・ムソン演じる「運び屋」の自宅から始まる。彼は身体が不自由な老母と暮らし、面倒を見ている。その老母は前の家政婦の料理が美味しかったと愚痴を言っている。やがてその家で家政婦が変わることには恐ろしい意味があることが明らかにされる。

 原作にそういう人物が登場するのかは定かでないが、本作では、法医学者アリスと行動をともにする通訳のイ・ミスク、イェ・ジウォンが演じるこの人物が、事件をめぐって複雑な立場にあり、次第に追い詰められていくことになる。

 アリスがあるトラウマを抱えていること、事件の捜査を通してジノとアリスが接近していくことがサブプロットになるが、この上映時間であればひとつに絞ってもよかったのではないかと思う。これは勝手な想像だが、原作の主人公たちの恋愛関係は、シリーズの以前との作品との繋がりがあって成り立つもので、事件を通して出会ったジノとアリスの場合には、ほのめかす程度にとどめ、トラウマを克服するエピソードに力を入れたほうが、インパクトが生まれたように思える。


(upload:2022/05/03)
 
 
《関連リンク》
ドゥニ・デルクール 『譜めくりの女』 レビュー ■
ポン・ジュノ 『殺人の追憶』 レビュー ■
ナ・ホンジン 『チェイサー』 レビュー ■
スティーヴン・フリアーズ 『堕天使のパスポート』 レビュー ■
デヴィッド・クローネンバーグ 『イースタン・プロミス』 レビュー ■
ジョシュア・マーストン 『そして、ひと粒のひかり』 レビュー ■

 
 
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