譜めくりの女
Le tourneuse de pages


2006年/フランス/カラー/85分/ヴィスタ/ドルビーSR・DTS
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(初出:共同通信47NEWS「花まるシネマ」2008年4月15日更新、若干の加筆)

 

“音楽”というグレーゾーンで絡み合う愛憎

 ヴィオラ奏者としても評価されているドゥニ・デルクール監督にとって、長編5作目となるこの映画では、復讐のドラマと音楽が複雑に絡み合い、異様な緊張感を生み出していく。

 ピアニストになるという少女メラニーの夢は、コンセルヴァトワールの実技試験で、人気ピアニストの審査員アリアーヌがとった無神経な振る舞いによって打ち砕かれる。

 それから十数年後、美しく成長したメラニーが、事故が原因で不安を抱えているアリアーヌの前に現れる。まず、彼女の夫の弁護士事務所で実習生として働くようになり、彼女の息子の子守を引き受け、そして彼女の譜めくりとなる。

 この復讐劇を印象深いものにしているのは、“音楽”というグレーゾーンだろう。メラニーはアリアーヌを憎みつづけてきたはずだが、音楽を憎んでいるわけではない。少女時代にひたすらレッスンに励んできたのであれば、意識よりも感覚が反応するだろう。

 譜めくりの良し悪しは、自信を失ったピアニストの演奏の成否を左右する。メラニーはアリアーヌの不安と緊張を理解し、アリアーヌは彼女に全幅の信頼を寄せるばかりか、危険な恋愛感情まで抱くようになる。

 ふたりの女のあいだのグレーゾーンは、ある意味で過去へとさかのぼるともいえる。実技試験でアリアーヌが無神経な行動をとったとしても、結果はやはりメラニー自身の問題だ。そして、成長したメラニーがグレーゾーンにアリアーヌを誘い込んだとしても、運命を選択しているのは彼女自身なのだ。

 純粋で多感な頃に絶望的な挫折を味わうことの残酷さと、成功の人生や幸福な家庭が崩れ去ることの残酷さ。この映画では、抑制が効いた演出によって、ふたつの運命が見事に対置されている。

▼ ドゥニ・デルクール監督新作『バニシング:未解決事件』予告。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ドゥニ・デルクール
Denis Dercourt
脚本 ジャック・ソティ
Jacques Sotty
撮影 ジェローム・ペルブラン
Jerome Peyrebrune
編集 フランソワ・ジェディジエ
Francois Gedigier
音楽 ジェローム・ルモニエ
Jerome Lemonnier
 
◆キャスト◆
 
アリアーヌ・フシェクール   カトリーヌ・フロ
Catherine Frot
メラニー・ブルヴォスト デボラ・フランソワ
Deborah Francois
ジャン・フシェクール パスカル・グレゴリー
Pascal Greggory
ローラン グザヴィエ・ドゥ・ギュボン
Xavier De Guillebon
ヴィルジニー クロティルド・モレ
Clotilde Mollet
ブルヴォスト夫人 クリスティーヌ・シティ
Christone Citti
ブルヴォスト ジャック・ボナフェ
Jacques Bonnaffe
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(配給:トルネード・フィルム)
 

 

 

(upload:2011/11/23)
 
 
《関連リンク》
ドゥニ・デルクール 『バニシング:未解決事件』 レビュー ■

 
 
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