[ストーリー] 映画シリーズ終了から20年、今も世界中で愛されているスーパーヒーロー“バードマン”。だが、バードマン役でスターになったリーガンは、その後のヒット作に恵まれず、私生活でも結婚に失敗し、失意の日々を送っていた。
再起を決意したリーガンは、レイモンド・カーヴァーの「愛について語るとき我々の語ること」を自ら脚色し、演出と主演も兼ねてブロードウェイの舞台に立とうとしていた。ところが、代役として現れた実力派俳優のマイクに脅かされ、アシスタントに付けた娘のサムとは溝が深まるばかり。しかも決別したはずの“バードマン”が現れ、彼を責め立てる。果たしてリーガンは、再び成功を手にし、家族との絆を取り戻すことができるのか?[プレスより]
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の新作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の主人公リーガンは、スーパーヒーロー映画『バードマン』で大スターになったものの、シリーズ終了後の20年は新たなヒット作に恵まれず、家族も失ってしまった男だ。そんな彼はどん底から抜け出すため、レイモンド・カーヴァーの短編の脚色・演出・主演で初めてブロードウェイの舞台に立とうとするが、次々とトラブルに見舞われる。
映画はリーガンが、自分の楽屋で空中に浮遊しながら考え事をしているところから始まる。彼は触れずにモノを動かしたりもする。普通ならそうした現象がなにを意味するのか考えるところだが、そんな余裕はすぐになくなるはずだ。
この映画では演技とカメラワークと音楽が大胆かつ緻密に結びつけられ、私たちは冒頭から一気にリーガンの世界に引き込まれる。ドラマはプレビュー公演と初日の舞台と舞台裏に限定されている。全編ワンカットかと錯覚しかねない巧妙なカメラワークは、切れ目なく登場人物たちを追い続ける。サントラの大半はジャズ界を代表するドラマー、アントニオ・サンチェスのソロで占められ、状況に合わせてリズムが自在に変化する。ドラムソロのサントラというのはかなりの冒険だが、この映画ではカメラワークを見事に補完している。
そんな空間のなかでリーガンは確実に追いつめられていく。スーパーヒーロー“バードマン”という過去の亡霊(あるいは分身)が現れ、彼を乗っ取ろうとする。家族の絆を取り戻すために、アシスタントに起用した自分の娘からはツイッターもフェイスブックもできない過去の遺物だと思われている。その一方では、些細な過ちから下着姿で劇場の外を歩く無様な姿をネットに流され、晒し者にされる。さらに、ピンチヒッターで加わった実力派の舞台俳優が話題を独占し、映画人嫌いの大御所演劇評論家が手ぐすね引いて初日を待っている。
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