アモーレス・ペロス
Amores Perros


2000年/メキシコ/カラー/153分/ヴィスタ/ドルビー・デジタル
line
(未発表)

 

 

作為的な表現によって限りなく閉塞する物語

 

 各国の映画祭でたくさんの賞を受賞し、筆者のまわりでも非常に評判のよい映画だったが、筆者はまったくだめだった。この映画には、一方にリアリズムがあり、もう一方には時間軸を操作するような作為的な表現があるが、どうしてもそれがかみ合っているとは思えない。

 この映画は三つの物語からなり、それぞれの主人公の立場はまったく異なるが、どれも主人公と犬の関係が物語のポイントになっている。純情な若者オクタビオは、飼い犬を闘犬に出して資金を稼ぎ、薄幸の兄嫁と駆け落ちしようとする。

 人気モデルのバレリアと妻子を捨てたダニエルは、新しい生活を始めようとするが、バレリアは事故にあい、車椅子の生活を強いられる。さらに彼女の心の支えになっていた愛犬が床下に閉じ込められてしまう。ゲリラ活動のために服役した後、すべてに失望して殺し屋として働くエル・チーボは、父親だと名乗り出ることもできずに、娘を遠くから見つめている。

 


◆スタッフ◆

監督/脚本 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
Arejandro Gonzalez Inarritu
脚本 ギジェルモアリアガ・ホルダン
Guillermo Arriaga Jordan
撮影監督 ロドリゴ・プリエト
Rodrigo Prieto
音楽 グスターボ・サンタオラヤ
Gustavo Santaolaya

◆キャスト◆

オクタビオ
ガエル・ガルシア・ベルナル
Gael Garcia Bernal
スサナ バネッサ・バウチェ
Vanessa Bauche
ダニエル アルバロ・ゲレロ
Alvaro Guerrero
バレリア ゴヤ・トレド
Goya Toledo
エル・チーボ エミリオ・エチェバリア
Emilio Echevarria

(配給:東京テアトル・メディアボックス)

 やがて三つの物語がひとつの事故で繋がっていることが明らかになる。闘犬をめぐるトラブルから追われる身となったオクタビオは、バレリアが運転する車に激突し、その現場に居合わせたエル・チーボは、瀕死のオクタビオの飼い犬を救う。

 この映画は、それぞれの物語をリアリズムで描きながらも、あえて時間軸を操作し、この事故で主人公たちを交錯させる。しかし、時間や物語の流れにこれだけの作為を加えているにもかかわらず、それぞれの主人公のあいだに何らかの関係が生まれることはまったくない。主人公たちは、事故で交錯した相手のことなど眼中にないように、それぞれの物語のなかに戻っていく。

 結局、この事故のエピソードからどんな効果が生まれるかといえば、それぞれの物語が、リアリズムとは違う次元で異様に閉塞していくということだ。たとえば、ウォン・カーウァイの映画のように、異なる物語を生きる主人公たちがすれ違うという行為からは、彼らが存在する世界が開ける。しかしこの映画の場合は、作為的な表現によって物語が閉じ、そのなかでリアリズムを発揮すればするほどに物語はさらに閉塞し、彼らが共有するはずの世界の空気は希薄になっていく。

 それぞれの物語には主人公と犬をめぐって印象的なエピソードがあるにもかかわらず、物語が閉じているために、そのエピソードの波紋のようなものが他の物語に伝わっていくことはない。あるいは、それぞれの物語が、この非情で混沌としたメキシコシティーという都市とともに呼吸しているようには見えない。そして、リアリティではなく、リアリズムとかみ合わない映画的な表現が生み出す息苦しさだけが残るのだ。


(upload:2002/02/14)
 
 
《関連リンク》
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』 レビュー ■
『21グラム』 レビュー ■
『BIUTIFUL ビューティフル』 レビュー ■

 
 
amazon.co.jpへ

ご意見はこちらへ master@crisscross.jp
 


copyright