スティーブ・ジョブズ:OST / ダニエル・ペンバートン
Steve Jobs: Original Soundtrack / Daniel Pemberton (2015)


 
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(初出:)

 

 

3つの伝説のプレゼンを通してジョブズに迫る映画
3幕の構成を際立たせるシンセサイザーとオペラ

 

 『トレインスポッティング』『ザ・ビーチ』『127時間』『トランス』ダニー・ボイル監督、『ソーシャル・ネットワーク』アーロン・ソーキンが脚本を手がけた『スティーブ・ジョブズ』(15)のサウンドトラックです。物語の土台になっているのはウォルター・アイザックソンのベストセラー『スティーブ・ジョブズ』ですが、2013年に公開されたジョシュア・マイケル・スターン監督の『スティーブ・ジョブズ』のような伝記映画にはなっていません。

 ソーキンが注目したのは、ジョブズが行った伝説のプレゼンの数々。この映画は、3つの新作発表会のプレゼン――1984年のMacintosh、1988年のNeXT Cube、1998年のiMacで構成されています。しかも実際に描かれるのは、プレゼンそのものではなく、直前40分の舞台裏です。

 この3幕の構成は、サントラとも深く関わるものなので、ここでその意味を少し掘り下げておきたいと思います。

 ジョブズはそのプレゼンで、3つのシーンや3つの機能など、3つの要素やメッセージで説得力を生み出す3点ルールを厳守し、聴衆を魅了しました。ベストセラー『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』でその伝説のプレゼンを分析した著者カーマイン・ガロは、同書をまとめるにあたって、「ジョブズが好んで行うプレゼンテーションのメタファー、3幕構成の演劇という形」をとりました。この映画の構成もそれに倣っているといえます。

 イギリスの作曲家ダニエル・ペンバートンが手掛けたこのサントラは、そんな3幕構成をさらに際立たせる役割も果たしています。映画のプレスでは、音作りのプロセスが以下のように説明されています。

「音楽を手掛けたダニエル・ペンバートンは、ボイルから幕ごとの3つの音楽を依頼された。第1幕は新しい技術の無限の可能性が期待された時代に合わせて、初期のコンピュータのサウンドをイメージした曲が作られ、ジョブズがファンだったヴァンゲリスがよく使っていたヤマハCS80のシンセサイザーで演奏された。

 第2幕はオペラの復讐劇のイメージで、二つの楽章が作られた。第1楽章は軽快で気まぐれなアレグロで始まる。第2楽章は終幕に向かうにつれて、だんだんと重厚さを増していく。途中でコーラスが入るが、わざわざこのためにイタリア語でコンピュータをテーマにしたオペラの台本が書かれ、74人編成の豪華なオーケストラで演奏された。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   The Musicians Play Their Instruments...
02. It's Not Working
03. Child (Father)
04. Jack It Up
05. The Circus Of Machines I (Overture)
06. Russian Roulette
07. Change The World
08. The Skylab Plan
09. Don*t Look Back Into The Sun - The Libertines
10. ...I Play The Orchestra
11. The Circus Of Machines II (Allegro)
12. Revenge
13. Rainy Day Women # 12 & 35 - Bob Dylan
14. It's An Abstract
15. Life Out Of Balance
16. The Nature Of People
17. 1998. The New Mac.
18. Father (Child)
19. Remember
20. Grew Up At Midnight - The Maccabees
21. Shelter From The Storm - Bob Dylan

◆Personnel◆

Daniel Pemberton - synthesizer; Matt Robertson - synthesizer; Chamber Orchestra of London - Orchestra

(Back Lot Music)
 

 第3幕はジョブズの製品のように、余分なものをそぎ落とした、シンプルでエレガントな曲になっている。この時代になると、あらゆる映画音楽がコンピュータで作曲されていたので、アップルのソフトウェアを使って作られた」(プレスより引用)

 ちなみに、第2幕のNeXT Cube発表会はサンフランスシコのオペラハウスで行われたので、音楽が舞台とも結びつき、素晴らしい効果を生み出しています。また、幕間を埋める音楽としてザ・リバティーンズの<Don’t Look Back Into The Sun>、ボブ・ディランの<Rainy Day Women # 12 & 35>と<Shelter From The Storm>、ザ・マカビーズの<Grew Up At Midnight>が収録されています。

《参照/引用文献》
『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン●
井口耕二訳(講談社、2011年)
『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』カーマイン・ガロ●
井口耕二訳(日経BP社、2010年)

(upload:2016/01/23)
 
 
《関連リンク》
Daniel Pemberton official Site
ダニー・ボイル 『スティーブ・ジョブズ』 レビュー ■
デヴィッド・フィンチャー 『ソーシャル・ネットワーク』 レビュー ■
リドリー・スコット 『悪の法則』 レビュー ■

 
 
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