ハッシュパピー バスタブ島の少女:OST / ダン・ローマー&ベン・ザイトリン
Beasts of the Southern Wild: OST / Dan Romer & Benh Zeitlin (2012)


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ)

 

 

死や喪失と深く関わる物語
マイケル・ナイマンとの接点

 

 映画『ハッシュパピー バスタブ島の少女』の監督ベン・ザイトリンは、ミュージシャン/プロデューサーのダン・ローマーとともに音楽も手がけている。彼の映画では、音楽が非常に重要な位置を占めている。というのも、ザイトリンは高校や大学時代には、バンドで活動したりミュージカルを創作するというように、まずなによりも音楽に関心を持っていた。ちなみに演奏する楽器は主にギターで、ピアノもこなすようだ。

 そんなザイトリンにとっては映像と音楽は対等なものであって、どちらも共通のイマジネーションから生み出され、深く結びついている。筆者は『ハッシュパピー バスタブ島の少女』試写室日記で、この映画の音楽について、「マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもある」と書いた。

 以下のYouTubeは、ザイトリンとローマーも参加したサントラの1曲<Once There Was a Hushpuppy>の演奏風景を収めたものだ。筆者はすぐにナイマンを連想するが、それは間違いではなかったようだ。

 ネットでザイトリンのインタビューをチェックしたら、影響を受けた音楽家として、クラシックではチャイコフスキーとラフマニノフ、映画音楽の作曲家ではマイケル・ナイマン、ジョン・ウィリアムズ、初期のダニー・エルフマンを挙げていた。ケイト・ブッシュもよく聴いていたという。あとは直接映画の舞台に結びつく様々なケイジャン・ミュージックだ。

 しかしそのなかでも特に注目なのはナイマンの音楽との繋がりだろう。かつてナイマンは自分の音楽のことを“Death Music”と表現していた。たとえば、昔、筆者がインタビューしたとき、このように説明していた。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Particles of the Universe (Heartbeats)
02. The Bathtub (feat. The Lost Bayou Ramblers performing Valse de Balfa)
03. Momma’s Song
04. I Think I Broke Something
05. The Smallest Piece
06. Les Veuves de la Coulee
07. End of the World
08. ?Until the Water Goes Down
09. Mother Nature
10. The Survivors
11. Particles of the Universe (Elysian Fields)
12. Strong Animals
13. La Danse de Mardi Gras
14. The Thing That Made You
15. The Confrontation
16. Death Bed
17. Once There Was a Hushpuppy

◆Personnel◆

Dan Romer & Benh Zeitlin

(Thirty3anda3rd Rec.)
 

確かに、ピーター(・グリーナウェイ)の映画とは無関係にわたしはたくさんの“Death Music”を書いています。『コックと泥棒、その妻と愛人』で使われた <メモリアル>はサッカーの試合で死亡したファンに捧げた60分の作品の一部で、 元々は架空の死ではなく現実的な死に対するわたしの直接的な感情の表明であり、また、地震の死者に捧げる曲なども書いています。これはある種のレクイエムのモードというものにわたしが親しみをおぼえ、 自然なものを感じるからです。西洋音楽の歴史のなかには、死に対するきまった表現モードが作り上げられ、わたしはそのラインを引き伸ばしているようにも思います

 『ハッシュパピー バスタブ島の少女』では、死や喪失と深く関わる物語が描かれる。そして、その音楽は単にナイマンの楽曲に似ているのではなく、ザイトリンはそこにレクイエムの要素を感じとり、しっかりと引き継いでいるといえる。


(upload:2013/06/17)
 
 
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